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わたしが医務室に着くと、既にモンモランシーが治癒を受け終わり、 ベッドで静かに寝息を立てていた。 わたしも続けて治癒を受け終わり、わたしとギーシュとモンモランシーの三人 だけとなった。 なんと声を掛ければいいのか考えてるとギーシュから声を掛けてきた。 「すまなかったねルイズ、彼女は君がチヤホヤされる事に嫉妬してたんだよ。 彼女には僕が良く言い聞かせておくよ」 てっきり、わたしを責めるかと思ってたのに。 「ギーシュ・・・どういう風の吹き回しよ?」 ギーシュはファサと髪をかきあげた。 「なに、兄貴に君の事を頼まれたからね」 ・・・・・・? 「ちょっと待って、頼んだのは連れて帰る事で、ずっと面倒を看ることじゃ無かっ たと思うんだけど?」 「いいじゃないか、そんな細かい事は」 あっはっは、と高笑いをあげた。 「細かくないわよ、あんた一生わたしの面倒を看るつもり?」 「一生じゃないさ、君が一人前のメイジになるまでは見守るつもりさ」 「あんた、わたしが『ゼロ』だということを忘れたの?」 「その事について僕は大して心配なんかしてないさ。君は兄貴を召喚したんだ 近い内にきっと僕など足元にも及ばないメイジになるさ」 ギーシュがわたしをプロシュートを通じて認めてくれている。 「ほ、褒めたって何も出ないんだからね」 「別に見返りが欲しくてやっている訳じゃないさ」 コンコン。開けた扉からキュルケがノックをしていた、タバサも一緒だ。 「お邪魔だったかしら?」 「ちょ、キュルケ!そんなんじゃないんだから」 「よしてくれたまえキュルケ。僕には心に決めた人がいるのだから」 わたしは不快を隠さずキュルケに問う。 「で、何しに来たの?」 「何しに来たのとは、ごあいさつね。お見舞いに来たんじゃないのよ。後、報告」 「報告?」 「さっきの騒ぎ、授業に来たコルベール先生の耳に入ってね、珍しく恐い顔を してたわよ。後でここにも来るんじゃないかしら」 バタバタと廊下から足音が聞こえてきた。 「早いわね、もう来たわ」 キュルケが廊下を見ながら呟いた。 「コルベール先生・・・」 先生が息を切らせながら部屋に入ってきた。 「よかった、無事だったのですね」 先生は静かに眠っているモンモランシーの顔を確かめ息を整えてから、 こちらを向いた。 「ミス・ヴァリエール、事情は聞きました。 きみは自分の魔法をミス・モンモランシーに打ちましたね」 確かに、今のコルベール先生は恐い顔をしていた。 何人も人を殺しているような・・・プロシュートと少し雰囲気が似てる・・・ ・・・まさかね・・・。 「はい、その通りですミスタ・コルベール」 後悔はしていない。わたしはモンモランシーが許せなかった・・・ 「この貴族の学び舎で『規則』を破り魔法を打ち合うなどと、とても許せる 行為ではありません。この事は実家に連絡させていただきますので そのつもりでいるように。」 今、何て言いました? 「ごめんギーシュ、もう一回先生を呼んできてもらえる?まだ耳の調子が 良くないみたい・・・実家に連絡するって聞こえたわ」 「聞き間違いではありませんよ、ミス・ヴァリエール」 きっぱりとコルベール先生は言った。 「ちょっ!ちょっと待ってくださいよッ!」 「う、嘘ですよね。ちょっとおどかして気合を入れてから あとで本当は許してくれるんですよね、罰当番とかで」 コ・・・コルベール先生の目・・・ いつもの暖炉の火のような暖かい眼差しなんかじゃなく トライアングルスペルの炎の如く全てを焼き尽くさんと燃えている・・・ わたしの取るべき行動は・・・ わたしは部屋の窓を開け、窓枠に両手をかけ足を乗せ、そして・・・ 「ちょっとルイズ、ここ三階よ!」 キュルケに後ろから羽交い絞めにされた。 「放して、放してよキュルケ」 死に物狂いでもがくが体格の差で、わたしは部屋の中央に戻された。 「もうダメよ・・・おしまい・・・コルベール先生に連絡されたら・・・ あたしもう・・・生きてられない・・・もう死にたいわッ!!クソッ!!クソッ!! 飛び降りたいよ~、窓から飛び降りたいよ~」 嘆くわたしをキュルケが冷たく見下ろしている。 「・・・さっき、あなたの目の中にダイヤモンドのように固い決意をもつ『気高さ』を みたわ・・・だが・・・堕ちたわね・・・ゼロのルイズに・・・!!」 「ンなこたあ、どーでもいいのよッ!」 キュルケの侮辱も今はどーでもいい・・・ 「お・・・おわりよ・・・わたしはもう・・・おわったのよ・・・」 「ちょっとルイズ、一体何なのよ」 わたしの只事じゃない様子にキュルケが心配そうに声を掛けてくる。 「親がそんなに恐いの?」 親という単語が出ただけで震えが止まらない。 「な、なんて言ったら理解してもらえるのかしら・・・ そうね、プロシュートが『二人』説教しに来ると想像してみて」 嫌な沈黙が場を支配する。 「ご、ごめんルイズ。あたし用事を思い出したわ」 キュルケが慌てて部屋を出て行こうとする。 「用事って、どこに行くのよ?」 「ちょっとスティクスに会いに・・・」 「別れたんじゃなかったの?」 「・・・じゃあ、ペリッソン」 「じゃあって何!」 わたしとキュルケが言い合いをしている脇をそっとタバサが抜けようとしていた。 「ちょっとタバサ、どこに行くのよ?」 「・・・シルフィードにエサあげなきゃ」 「あんた、いつも放ったらかしでしょうが!」 視界の隅にギーシュが映る。モンモランシーをやさしく起しているところだった。 「さあ。ここは騒がしいので自室でゆっくりと休もうじゃないか」 「ギーシュあんたは見捨てないわよね、わたしを見守ってくれるのよね」 蜘蛛の糸に縋る思いでギーシュを見つめた。 人目があっても『あの方』の罰が緩くなるとは思えないが、もしかしたら九死に 一生を得るかもしれない。 「うむ、確かに言った!」 ギーシュは力強く頷いた。 「だが、それはそれ、これはこれだ!!」 「うらぎりものおおおおおおぉぉ!!」
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前ページ次ページDISCはゼロを駆り立てる ルイズはヴァリエール家の領地にある泉の畔で、泣きはらした真っ赤な目を擦りながら立っていた。 教科書の内容を全て覚えても、腕がちぎれるかと思うぐらい杖を振っても、喉が枯れるほど呪文を唱えても、成功の欠片すら見えない。 火も水も風も土も、どれもこれもダメだった。どんなルーンを叫んでも、大爆発という不躾な結果に終わってしまう。 明日は久しぶりにワルド様が"にんむ"から帰ってくるというのに、自分はまだ才能無しのゼロのままだ。 ちい姉さまのお部屋に行けばきっと慰めてくれるけど、こんなに頼ってばかりではダメだと思う。けれど、本当にどうしようもない。 ルイズはゼロのルイズが嫌いだった。自分を殺したいほど大嫌いだった。 「ふぁいあー・ぼーる!」 噛み破られて薄っすらと血が浮いた唇から、やや舌足らずなまでも発音は完璧に近い呪文が紡がれる。 だが少女が幼い胸を壊すほど願っても、血反吐を吐くような渇望の果てでも、結果は今までと同じ失敗だけだった。 間近で発生した爆発によりルイズは吹き飛ばされ、草の上を無様に転がる。小さな手の平から杖が飛んで行った。 「なんで……なんで、なんでよ……」 再び零れかけた涙を、目が潰れるぐらい強く目蓋を閉じて押し込めた。また小舟に戻るのは嫌だから。 やがて涙を湛えた瞳でルイズが見たものは、見るも無残な姿になった自分だった。ぼろを纏った姿はとても貴族には見えない。 特に杖を持っていた右腕は酷く、破けてしまった袖が縋りつくように残っている程度で、小石が跳ねたのか怪我までしていた。 ズキズキと鈍い痛みを発する二の腕を無意識的に摩る。 「なんでなのよっ!!!」 やり場の無い怒りは自らを焼き尽くすように燃え上がり、左手で傷跡を掻き毟るように痛めつけた。白い肌に無数の蚯蚓腫れが走る。 この世界が憎かった。才能の無い自分が嫌だった。魔法を使えるメイジが羨ましかった。 やがて自分を引き裂く痛みで我に返ったルイズは、数メイル先に転がっていた自分の杖を拾い上げ、呼吸を整え始めた。 体の隅々にまで酸素を行き渡らせ、未だ痛む右腕を意識の外に放り出す。脳裏に描いたのは当たり前の、でもルイズは持っていない物。 アンリエッタのような友達が、ちい姉さまの動物たちのような存在が欲しかった。何でもいいから力を願った。笑われない実力を渇望した。 「わが名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 五つの力をつかさどるペンタゴン。 われのうんめいにしたがいし、"つかいま"をしょうかんせよ」 再び耳をつんざくような爆発が起きたが、同時に大きな銀色の鏡がルイズの前に現れた。 現実を信じられぬままに茫然とそれを見つめ、ゲートから現れた大きな亜人をただただ凝視している。 不思議なマスクを被った、全身に横縞模様のある奇妙な人物だったが、初めて成功した魔法にルイズの心は高鳴っていた。 「こ、こんにちは! 私の名前はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 ……あ、あなたのお名前は? 亜人さん」 「……私ハ、ホワイトスネイク。"亜人"デハナク、スタンド、ダ」 この日この瞬間から、ルイズの物語はまったく別の方向に進み始める事となった。 眠りから覚めて薄く眼を開けたルイズは、見慣れた天蓋を確認して大きく体を伸ばした。久しぶりにあの時の事を夢に見た。 今日は使い魔召喚の儀式の日だから、恐らくはそのせいだろう。全身から力を抜いてベッドの上で寝返りをうち、大きく溜息を吐いて起き上がる。 すでに使い魔を持っている生徒は一日お休みだから、図書館にでも行ってみるのも良いかもしれない。 ホワイトスネイクを発現させて着替えを手伝ってもらながら、ルイズ自身は杖を振るって桶の中を水で満たした。 風のスクェアであるルイズには、この程度の芸当はまさに朝飯前だ。もっともあまり注目されたくないので、まだトライアングルで通している。 手際よく朝の支度を済ませ、最後に貴族の証であるマントを羽織って食堂へ向かう。廊下で擦れ違った生徒と軽く挨拶を交わした。 「あら、おはよう、ルイズ」 「おはよう、キュルケ」 ルイズがいつもの席に座ると、珍しくキュルケが先に来ていた。普段は後から来るか、ほぼ同時に部屋から出てくるのが常だが、やはり今日は特別のようだ。 失敗の不安は微塵もなさそうだが、一生物になりえる使い魔召喚の儀式には興奮するのだろう。火のトライアングルとして、下手な使い魔を呼び出す訳には行かないのだろうし。 もっともそれは殆どの生徒に言える事なようで、2年生のテーブルはすでに食堂の中は生徒たちで溢れていた。自分が呼び出すであろう使い魔の話で盛り上がっている。 「見てなさいよ? 絶対に、あなたより凄い使い魔を召喚して見せるんだから」 「ふふぅん。ま、一応は期待しておいてあげるわ」 ホワイトスネイクは一種の幻獣という扱いで通しており、ルイズの実力とも相成ってこのトリスティン魔法学校ではかなりの有名人だ。 ただし幻獣の癖に魔法が使えず拳しか能が無いこと、基本的にメイジの戦闘は遠距離での魔法の打ち合いという事実が重なり、評価は素晴らしく高いという訳ではない。 もっとも、隠している能力を知られた場合は、間違いなくハルキゲニア一の使い魔だろうが。 「言ってくれるじゃないの。それでこそ、私のライバルよ……。胸は私の圧勝だけど」 「……っ! 胸は関係ないでしょ、胸は!」 ニヤニヤしたキュルケの視線から胸を庇うために両手を組んで、顔を少し赤らめながらルイズは叫ぶ。 いずれはスクェアも近いとされているルイズにとって、唯一の弱点にして最大のコンプレックスは貧相なボディだった。 豊胸体操やらマラソンやらでそれなりに鍛えているのだが、まさに絶壁という感じで全く成長せず、こればかりは魔法でもどうにもならない。 その辺の男が迂闊にこのキーワードを口に出すと恐ろしい報復を覚悟せねばならないが、唯一キュルケだけは笑って言い合える仲だった。 部屋が隣り合った当初から何かと衝突するも、正面からぶつかり合っている内に悪友と言える間柄になっていたのだ。 やがて朝食の時間がくると、何人ものメイドたちが忙しなく駆け回り始める。二人はまだ言い合っていたためにやや遅れたが、あわてて両手を合わせた。 「偉大なる始祖ブリミルと女王陛下よ。今日も我にささやかな糧を与えたもうたことを感謝いたします」 内容とは裏腹に贅を尽くした豪華な食事が所狭しと並べられており、祈りが終わると再び食堂にざわめきが戻る。 皮がパリパリに焼けている美味しそうなローストチキンにナイフを入れながら、ルイズはふと遠い日の記憶を思い起こした。 そう、あれはまだルイズがゼロだった頃、そして道を踏み外す前の話。 湖畔でホワイトスネイクの召喚に成功したルイズは大いに喜んだが、その驚くべき特性を知ると戦慄してしまった。 なぜか自分にまで伝わってきた焼き鏝を押し付けられたような熱さも忘れ、ただ息をのんで説明に聞き入る。 彼は才能や記憶をDISCという不思議な円盤に変えて抜き出し、さらには他者にそれを与えることができるのだという。 「そんな、誰かから、奪うだなんて……」 幼いルイズは自らが呼び出した"すたんど"という物に恐怖を覚えたが、心中ではそれを遥かに上回る狂気が荒れ狂っていた。 ずっと持たざる者であった彼女にとって、魔法の才能という誘惑はあまりにも大きい。身を焼かれながらも誘蛾灯に引き寄せられる昆虫のように。 それでも抑えていられたのは、一重にルイズが貴族であったからだ。10歳にも満たない少女は、その実誰よりも貴族たらんとしていた。 自分が魔法を使えるようになるのは素晴らしい。だが、この苦しみを誰かが代わりに味わうとなれば話は別だ。 「私ヲ使モ、使ワヌモ、君ノ自由ダ……。強制ハ、シナイ」 結局ルイズはどちらも決断できず、日が暮れるまで悩みぬいた後で屋敷へと戻った。 お母さまに叱られることを覚悟していたものの、ルイズの酷い格好と腕を自分の爪で引っ掻きまわした痕に気づいたのか、着替えと水メイジの居るカトレアの部屋に行くように言われただけに終わる。 初めての魔法が成功した事を伝える事はしなかった。ホワイトスネイクに情報はできるだけ隠すべきだと言われたからだ。 「どうしよう……。どうしたらいいの……?」 大好きなちい姉さまに恐れられるのが怖くて、ルイズは治療が終わった後ですぐに自室に戻り、身を縮込ませながらベッドでシーツをかぶっていた。 能力を使わないホワイトスネイクだって、接近戦闘なら並の使い魔よりよほど強いようだし、それだけで満足することも考える。 魔法は使いたい。でも誰かから奪うのは嫌だ。けれどもこれ以上馬鹿にされたまま生きていたくない。 どれほどそうしていたのか、いつの魔にか夕食の時間を逃していたようで、使用人の一人が部屋にサンドイッチをいくつか運んできた。 はっきり言って食欲は全く沸いてこなかったが、とりあえずお礼だけは言った。テーブルにおいてもらい、再び深慮の彼方に思考を飛ばす。 自分の魔法の才能をDISCにしてもらい、自分がまだ開花していないだけだという確認も取れた。やがてはルイズだって普通に魔法を使えるようにはなるはず。 「でも、それはいったい何時になるの……?」 すでに社交の場では、ルイズより幼い年齢の少年少女がコモン・マジックを成功させたという話がいくつも聞こえて来る。 上品に隠された口元からは暗にルイズを馬鹿にする内容ばかりが漏れ、それを聞くたびにドレスの裾を手が白くなるまで握り締めるしかなかった。 自分だってと思って、ひたすらに魔法の練習を重ね、服をボロボロにして叱られる。 教科書を完全に暗記して、それでも水泡に帰して涙を流す。 腕が上がらなくなるまで杖を振り、呪文をつむげば爆発で吹っ飛ばされる。 何時までこの出口の無い暗闇を歩けばいい? 何度、ヴァリエール家から放り出される悪夢を見ればいい? しかし、今のルイズには力があるのだ。もしスクェアの才能を奪い取れれば、きっとドットぐらいならすぐに使えるようになる。 ドットでも良い。大歓迎だ。せめてコモンマジックだけでも使えれば、そうすればもう誰も私を……。 「……のど、渇いちゃった」 あまりに重すぎる選択に、ルイズの頭と心は悲鳴をあげていた。熱をもった頭に腕を押し付けて冷やす。 年齢の割には膨大な知識を詰め込んでいるとはいえ、ルイズはまだ外を駆け回って遊んでいてもおかしくない子供なのだ。 熱に浮かされながらルイズは屋敷の中を進み、厨房で飲み物をもらうために歩き続けた。答えの無い二択が常に頭の中にある。 やがてやっと入り口まで辿りついたとき、中から声が聞こえた。 「……んとに、ルイズお嬢様は難儀だねえ」 「まったく。上のお二人はあんなにおできになるというのに」 平民である使用人たちがルイズをバカにしている。 聞いてはいけないと思うのに、体が硬直して動かなかった。 「奥様も、お辛いでしょうねえ……。カトレアお嬢様があんな体で……」 「魔法もよくおできで、心の優しい良いかたなのに、あんな風に生まれついて……」 「これで、ルイズお嬢様がもう少しちゃんとなさってたら、少しはねえ……」 違う。私は、貴族として……。だから、魔法を……。努力して……。 「ここまで違うと、もしかして、ルイズお嬢様は……」 「たしかに、それなら……」 「魔法の才能が無いのも……」 何だ。何を言っているんだ。私はヴァリエールだ。そんな訳が無い。才能だってあった。確かめた。まだ時がいるだけ。 ホワイトスネイクに頼らなくても、いつの日かきっと立派なメイジになって……。 「そういえばその頃、確かに旦那様の浮気疑惑があったと……」 「ええ! なら、本当に……」 「平民の……」 違う。 違う違う違う。 違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う。 違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う。 違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う。 違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う。 違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う。 違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う。 違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う。 違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う。 違う……よね? 誰か教えて! わたしは本当にヴァリエールなの? こんな才能無しで、本当にメイジなの? 私は、わたし、わた、し……。 ルイズの右手が蛇のように剥き出しの二の腕に喰らいつき、爪で皮膚を割って肉を引き裂いていた。 豪奢な絨毯の上に朱の雨が何粒も降り注ぐ。限界を超えた負荷に骨がきしみ筋肉が悲鳴を上げ、ルイズの手は真紅の川が流れているように染まった。 恐ろしい物を前にした時のように後ずさり、血を滴らせながら自分の部屋へと逃げ込んでいった。 おとうさま、おかあさま、わたしは、ほんとうに、きぞ、く……。 前ページ次ページDISCはゼロを駆り立てる
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『女教皇と青銅の魔術師』 某教師の日記 ○月○日 先日手に入れた東洋の海草から抽出した秘薬の成果が出たのか、頭皮がむず痒い。 大枚をはたいた甲斐があった。 この海草成分の何が効いたのかを研究すれば、さらなる成果を生み出せるだろう。 淡水で育ち養殖が簡単なものから抽出できれば、この薬だけで巨万の富を築ける。 東洋の生物図鑑のセットを経理に陳情。最優先としておく。 あと、本日は恒例の春の使い魔召喚の日であったが、平民を呼び出した生徒が二人出た。 ルーンが両者独特であった。これも今後の研究対象にメモしておこう。 ギーシュ・ド・グラモンは武門の生まれである。 父も兄も立派な騎士であり、ギーシュは彼らに並び立つべく努力していた。 しかし現在の彼はドットメイジ。土の最底辺のメイジでしかない。 一応それなりの術は使えるが、戦力としてはまだまだ未熟。 親兄弟に認められる為にはもっと強力な、戦場でも役に立つほどの力が要る。 認められなければ? ―――知れたこと。血縁上価値ある人質として適当な人脈の娘をあてがわされ、ただの種馬扱いにされる。 他の貴族はいざ知らず、グラモン家は実力でその地位を掴み取った貴族なのだ。 力無い身内は、足手まとい。 だから彼は、使い魔の儀式には悲壮な決意をもって(外面は何事もないかのように振舞いつつ)挑んだ。 そして… 「はい?」 ギーシュは困惑していた。 召喚の儀式自体はうまくいった。呪文もつっかえなかったし、手応えだってあった。 一ヶ月前からの特訓(もちろん皆には秘密だ)は無駄ではなかったとほっとしたくらいだ。 ―――なのに何故、目の前には 顔面に重傷を負った女が、倒れているのか――― …級友は静まり返っている。リアクションに困っているようだ。 (ひょっとしたら僕がこの平民に大怪我させたって思われてる?) 「コルベール先生!召喚に失敗したようなのでもう一度やらせて下さい」 とりあえず怪我人を仰向けにしながら云う。目は開いているが意識は無いようだ。 (うわこの平民歯をボロボロに砕かれてる…グロい…) 友人がおっかなびっくり近づいてきて覗き込む。 「…うわ」「…ねえギーシュ、それ生きてるの?」「ぅぇぇ(嘔吐中)」 泣きたくなった。 誰も好き好んでこんなの召喚しねえよと言おうとしたら、コルベールU字禿から駄目押しが来た。 「ダメだ。君のやった儀式には何も問題は無かった。それは君が正しく召喚しそれに応えた使い魔だ。」 「…(心中罵詈雑言の嵐一分間)わかりました先生。では…契約します…」 口がボロボロなので上唇だけにキスをする。 (うう…なんでこんな目に…後でモンモランシーに口直しを…ってアレ?) ルーンが刻まれていく最中もその女は反応を示さなかった。 精神リンク確立。呼びかけるも思考の反応なし。やっぱり意識が無いのか… 五感リンク確立…ってしぎゃぁぁぁぁぁ! 当然、ダイレクトに重傷の痛みを共有してしまい、気絶した主と使い魔は共に救護室に運ばれる羽目になった。 (コルベール…知っててやったな…覚えてろ…育毛剤に脱毛剤入れてやる……) この後、ゼロのルイズが再び平民を召喚し契約したがギーシュがそれを知るのは翌日のことであった。 ★☆ 召喚儀式より数時間後――― 治癒魔法で怪我を完全に治癒しても、使い魔はほとんど反応を見せなかった。 名前だけは何とか聞き出せた。『ミドラー』というらしい。 正直、呼び出したのがフレッシュゴーレムやできたてゾンビの類じゃないと判ってほっとしたギーシュであった。 しかし… (精神リンク、五感リンク共完全に繋がっている。意思ある生き物なら多少の抵抗はあるのにそれすら全くない) (何か黒いような蒼いような感情が感じられるけど…絶望かな、これは?) (あの大怪我とこの状態から考えると、どこかの間諜が捕まって拷問を受けていた、ってところか。) 治療してみれば割と整った顔立ちをしている。 怪我に気を取られて気付くのが遅れたがよく見れば服装は踊り子のようだ。 当然彼はそんないかがわしい場所には入ったことは無い。服装をまじまじと見てしまい顔を赤らめたくらいだ。 とりあえずありきたりの服を着せておく。 (間諜ならそれなりのスキルはあるだろうし、意思が回復するまでは我慢するか…) 何とか自分を納得させる。これでただの平民だったらというのは考えない事にして。 「先生、僕の使い魔ですが回復するまで病室に置いてもらってかまいませんか?」 「かまいませんが、ちゃんと世話をしに来るように。明日以降はきちんと連れ回して外界に適応させる事。」 「はい。じゃあお願いします。」 (ああ、できれば見栄えのするグリフォンとかの幻獣がよかったなあ。) などと暢気な愚痴を漏らしながら自室に帰る。 彼は、自分が呼び出した者がどれだけ危険な存在か全く理解していなかった。 ★☆ 召喚翌日 ギーシュの日記 今日は人生最大の厄日だった。 まず最初の講義に使い魔を連れて行けなかったせいで、皆から笑いものになった。 よりによってゼロのルイズも同じ平民を召喚していた(しかもこっちは健康体だ!)ため、同レベル扱いされた。 何たる屈辱か。とりあえず嘲笑した奴の名前はちゃんとメモしておく。 その後食堂で、モンモランシーに派手に誤解された。 下級生のケティと二股かけてると勘違いしたらしい。完全に濡れ衣だ。 情緒不安定になってた後輩の気晴らしに付き合って遠乗りしただけなのに、なんでこんな目にあうのか。 まあその焼きもちが彼女の可愛いところでもあるのだが、公共の面前であの仕打ちはないんじゃないかモンモランシー。 あげく、うっかり話の流れと場の雰囲気でルイズの使い魔と決闘するハメになった。 なんとかこっちが話の落とし所を探して会話を打ち切ろうとしてたのに、あの馬鹿がつっかかってきて引けなくなった。 何も能力がないならせめて社会常識というか会話のマナーぐらい教えとけよルイズ… なんで僕が他人の使い魔に貴族への服従を躾けなきゃならないのか。 そして最後に 『その使い魔との決闘に負けた』 あの使い魔は残像ができるほどのスピードで動き、僕のゴーレムを両断するほどの剣術を見せた。 悪夢だ。 これで僕はこの学年で(いや、学園全体で、か?)ぶっちぎりの最下位メイジになった。 直前にモンモランシーが誤解したおかげで、彼女まで評価を下げることにならなかったのが唯一の救いか。 死にたい。 ★☆ 召喚二日目 昨日ギーシュは人生最大の厄日と日記に書き連ねていたが、それは昨日までの人生においての最悪であった。 そして今日、その記録は更新されることになる。 朝、使い魔を伴って授業に出る(朝飯は抜いた。) 教室に入った瞬間、皆の視線が一斉にギーシュと使い魔に向けられた。 (うう…視線が痛い…) 何やらぼそぼそと聞こえてくる全ての会話が自分の噂話のようにギーシュには聞こえてくる。 ミドラーは他人の視線にも全く反応していない。 ため息を付きつつ彼は図書室から借りてきた「精神と魔法」でなんとか対処法を見出そうと奮闘していた。 昼飯時、三年生の三人組がわざわざギーシュのところへやってきた。 教師の遠縁の下級貴族だ。 「ぎゃあーはっはっは、見ろよ相棒!本当に平民召喚してやがるぜぇ!」 「まあ平民に決闘申し込んで返り討ちにされる奴にゃあ似合いジャネーノ?」 「ああ、ガキくせー。」 (こいつら、まだ昔のこと根にもってやがる…) ギーシュはうんざりして無視を決め込む。 この三人が下級生の女子生徒にからんでいた所を、ギーシュが横から(予定があった様にあらわれて)女性を連れ出したのが確執の始まりであった。 女性には感謝されたが、モンモランシーに誤解されて危うく刺される所だった。 ギーシュは『美しいモノは相応の扱いを受けるべきである』という信条を貫いただけだったのだが… 「ああ!こっちを向けよテメーッ!」 「おいこの女白痴じゃね?」 何も喋らない使い魔の頭にソースをかけながら取り巻きが喋る。 そして致命的な一言を親分格が言ってしまう。 『まあ、こんな奴の主じゃあ知れたモンだろーなぁ!』 ソースをかけられたミドラーが何か反応を示すかと精神リンクを張っていたギーシュは、絶望や後悔を表す黒と蒼の精神の色が一瞬で怒りの赤一色に変化するのを感じた。 あまりの感情の波に引きずられてうっかり荒ぶる鷹のポーズを取ってしまったくらいだ。 そして彼は、自分の使い魔の意思ある言葉を初めて聞いた。 「DIO様のことを、侮辱したなッ!」 その場に居た全員が(誰?)と感じた。 しかし次に発生した事態のために誰もそんなことを構っていられなくなった。 床の石畳から、妙にカラフルな巨大な鉄の塊が飛び出して三年生を空中にふっ飛ばしたのだ。 「でェーッ!」「あ、兄貴!」 慌てて杖を構え…る前に、残り二人の足元から巨大な鉄のアームが瞬時に生えて二人を壁まで叩き付けた。 もちろん、途上にある豪勢な昼飯を全て巻き込みながら。 その時、その場に居た全ての生徒、全ての教師がミドラーを注視し、同時にほぼ同じ事を考えた。 (魔法を使っているッ!) (あの女、杖なしで魔法を!) (先住魔法か!) 天井に叩きつけられた最初の男が、静寂の中べちゃりと床に顔面から着地する。 それと同時に 悲鳴と怒号が交錯し、学院始まって以来の危険な使い魔がその猛威を奮い始めた。 フォークが踊るように飛ぶ 針金が束ねられたような縄が壁から生えて先生を団子のように縛り上げる 石畳から生えたトラバサミが生徒の足に噛み付く 三年生が呼び出した銅のゴーレムが、数十本の銛で壁に磔にされている ギーシュは自分の見ているものが信じられなかった。 明らかにこれは―――魔法だ。 スクウェアクラスの速さと強度を誇る、土の練成だ。 しかも杖を持っていない。 もしかして自分は、捕らえられていたエルフの間諜を呼び出してしまったのではないか? (止めなきゃ) がくがくと震えながらギーシュはバラを構える。 (止めないと皆殺される) (ただのメイジがエルフに勝てるもんか教師だって無理じゃないか) (止められるのは主のぼくだけででも怖い強制力なんてないし怖いそもそもこのエルフぼくを見てないし怖 い怖い怖い―――) ミドラーは飛ばそうとしていた銛を空中で急停止させた。 眼前に、バラの造花をこちらに捧げる様にした子供が飛び出してきたからだ。 記憶はおぼろげにしか無いか、たしかこの子は…怪我を治してくれたような…恩人? とりあえずこいつは敵ではないと判断する。 「隠れてなボウヤ」 「ららら乱暴はやめたまえ!」 ただの馬鹿のようだとミドラーは判断を下方修正し、とりあえず排除しようと――― 空気が震えるような凄みを食堂の入り口に感じ、反射的に身構えてそちらを見る。 長い白髪、床に届こうかとするほどの白い髭。 横一文字に構えた杖。 人の形をした悪鬼がそこに居た。 「やってくれた喃…」 妙なテンションでオールド・オスマンが囁く。 ミドラーは無言。両者15メイルほど離れて対峙する。 間に挟まれたギーシュはただ、 (空間が軋むようだ…) と、半ば死を覚悟していた。
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そろそろ時間だな。 十分ここら辺は把握した。人気のない場所も見つけた。 あとはワルドをそこに呼び出して殺すだけだ。 パーティーがあった場所へと向かう。まだいるかもしれないし、いなくてもいる場所を聞けばいい。 どうやって呼び出そうか……、無難に大事な話しがあるでいいな。 会場にはもうワルドはいなかった。給仕にワルドの部屋を聞き出し向かってみる。 部屋にもワルドはいなかった。 先程から探し回って色々なところを探しているが見つからない。 くそッ!これじゃあ計算が合わない。先にルイズを殺してしまうか?そうしたほうがいいかもしれないな。 そう思っているとワルドが反対側から歩いてきた。やっと見つけたぞ。しかもここは丁度人気がないところだ。 何かから何までお膳立てされてるみたいじゃないか。都合がいい! 「やっと見つけたよ使い魔君。随分と探したんだ」 どうやらあっちも私を探していたらしい。迷惑な、お前が歩き回らなきゃもっと早く見つかったというのに! 「話しがあってね」 そういいながら近づいてくる。あと20歩ほど近づいてくれば確実に首を撥ねれる。 早く近づいて来い。 「明日、僕とルイズはここで結婚式を挙げる」 あと15歩、 「是非とも、僕たちの婚姻の晩酌を、あの勇敢なウェールズ皇太子にお願いしたくなってね。快く引き受けてくださった」 あと10歩。 「決戦の前に、僕たちは式を挙げる」 あと5歩! 「君も出席するかね?」 今ッ!! ワルドがその言葉言い切った瞬間デルフを抜き放ち刃をワルドの首へと奔らせる!それは今まで一番速くそれこそ何者も邪魔できないほどに力強かった。 刀身は吸い込まれるようにワルドの首にめり込んでいきワルドの首を断ち切った。 やったぞ!ワルドを始末することが出来た! ……なのになんだこの悪寒は。まだ嫌な予感が消えない。 何故だ!?最大の不確定要素であったワルドは始末したはずなのに! そういえば首を撥ねたのに何故血が出なかった!?そういえば斬ったときの感触が何だかおかしくなかったか!? ワルドの死体を見やる。な、無い!?消えている!?何故ワルドの死体が無いんだ!どうして消えているんだ! 「どうなってんだッ!?」 思わず叫ぶ。それと同時あたりを見回し死体を捜す。 「相棒!後ろだ!」 デルフの声が聞こえると同時に後ろから声がして、体を衝撃が蹂躙した。 床に倒れている男は体のいたる所から煙を上げ、時折思い出したかのように体が痙攣し、白目を向き舌がだらしなく口から出ている。 それを見ているのは一人の男だった。顔には白い仮面が付けられている。 男は仮面を付けていてもわかるほどの笑みを浮かべている 「さっき君が斬ったのは風のユビキタス(遍在)だ。一つ一つが意思と力を持っている。」 男は倒れ付した男に話しかける。床に倒れている男は相変わらず痙攣している。 「作戦としては君が話して油断している間に攻撃して終わらすことになっていた。安全策をとってね」 男は誇らしげに話す。 「しかしまさか攻撃はされてもやられるとは思って無かったよ。しかも攻撃が殆ど見えなかった。やはり遍在を使ったほうがいいという勘は当たっていたな」 男は持っていた杖を腰に差す。 「使わなかったら遍在のように何も反応できずに殺されていただろう。やはり君は危険な存在だった」 男は仮面を外し懐にしまう。 「そうそう、君が受けたのは『ライトニング・クラウド』という呪文でね。『風』系統の強力な呪文だ」 仮面を外した男はそれはそれは残忍な笑みだった。 「しかし、いくら説明したところで君には聞こえないだろうがね」 男は踵を返す。男にはわかっていた。 もうこの男は助からないということが。『ライトニング・クラウド』をまともに食らえば助かるものなどいない。 「それではさよならだ使い魔君」 男は去っていった。 去っていった男はワルドといい、床に倒れ付した男はヨシカゲといった。
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アンリエッタの元に跪いた恰幅のよい男が、ぴくりと身を振るわせる。 「私は、今でもこの戦役は無益だと思っております。女王閣下。今からでも遅くはありませぬ。ぜひ出征をお考え直しくださいませ」 「それはなりませぬ。レコン・キスタと我々は、両雄あい成り立たぬ仲。どちらかが倒れぬ限り、どちらかの平穏はないのですよ」 この時期のトリステイン政府は、すでにレコン・キスタの征伐を国是江として掲げている。 「ヴァリエール公爵。いまさらあなた個人の兵役拒否をどうこう言うつもりはありません。ただ、確認したかっただけです」アンリエッタは続けて、 「その代わり、あなたの娘のルイズ。 あの娘を私に下さい」そう、一息に言い切った。 刹那の沈黙の後。 「なぜでございますか!」ヴァリエール公爵の怒号が王宮に響き渡った。 「あなたがたは、実の娘のことを本当に思っているのですね」アンリエッタは、ヴァリエール公爵の隣に跪いている女性に語りかける。 「エレオノール。あなたとあなたの父上が、無駄な殺戮をこのまないという本心を、私は疑うつもりはありません。ですが、いまは王国の危機、国家の大事なのです」 「ハッ。女王閣下。恐れながら、なぜにルイズなのでございますか? 直属の女官が必要ならば、わが家のルイズでなくともよいはずでございます。ちびルイ……ルイズを危険な目にあわせるつもりなのであれば、その代役をぜひ私、エレオノールにお任せくださいませ」 「何をいう、エレオノール!」ルイズの父親はそういったが、 「これは、ヴァリエール家としての総意でございます」エレオノールは、はっきりとそう言い切った。 「それは、今まで隠していましたが、ルイズが虚無の系統だからです」 「なっ。何ですと?!」ヴァリエール卿が目をむく。彼は今の今まで娘の系統を知らなかったのだ。 「失われた系統。欠けた系譜。始祖の系統。いずれもルイズの持つ魔法をうまく特徴付けています」 アンリエッタの事務的な口調が、ヴァリエール卿の表情を段々と蒼ざめさせていく。 「それでは、あいつがいつも魔法の失敗を爆発させていたのは……」 「はい、虚無の系統の発現ですわ」 エレオノールが静かに口を開く。 「女王様、私はルイズから聞きました。タルブの村で行われた決戦のこと、うわさの、光の玉のこと。ルイズの活躍のこと……」 真剣な表情のエレオノールとは異なり、アンリエッタは旧友の武勇伝を聞いている少女のような恍惚とした笑顔をしていた。 「ルイズの系統が『虚無』であるのであれば、なおさら姫様の申し出を受けるわけには行きませんわ。虚無はトリステインにとって、ていのいい駒。いわば切り札。ジョーカーにございます。ルイズを王宮にさしだせば、ルイズは今後戦争の渦中に身をおかなければならないでしょう。人としてではなく、ひとつの兵器として」 「いえ、違います。私は、トリステインの虚無を、ルイズを守るために言っているのです。げんに、以前、虚無の系統を、ルイズをかどわかそうとしたレコン・キスタの陰謀がありました。そのような卑劣なたくらみからルイズの身を守るには、魔法学院はあまりに無防備。ですから、私はルイズをわたし付きの女官としてルイズに王室の警備を与えたいのです」 「そうなのでございますか?」 「ええ、寒い時代ね。ルイズの身の安全を考えれば、許してくれますか?」 「これだけは誓っていただきたい」男の呟きが聞こえる。 「ルイズを危険な目に合わせない、と」 「わかりました。このアンリエッタ。誓いましょう」アンリエッタは水晶の杖を掲げ、誓約した。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――― ひとつの船の上に。二つの月の下で。 その男たちは不適に笑いあっていた。 「貴様がここまでついてくるとは思わなかったぞ。シェフールド殿」 「他愛のないおしゃべりはそこまでだ。確実にやってくれるのだろうな?」 青い月と赤い月。 白髪の盲目の男と、赤い髪の少年。 二つの月を象徴するかのように、二人は空船の甲板に立っていた。 「問題ない。『わたしたった一人で』できる依頼だ」 「自信に実力が伴っていればよいのですがね」 「ああ、大丈夫だ。今回は、貴様に『これ』をもらったからな。それにお前も協力してくれるのだろう?」 盲目の男は、丸い物体を取り出した。 月光に反射したそれは、銀色の反射光を出す。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――― トリスタニア魔法学院の一番大きな講堂に、アニエスの声が響きわたる。 「ひとつ、この戦は聖戦である。学生諸氏は勇んで我等が戦列に参加せよ!」 アニエスは先ほどから教壇に一人立って演説を行っていた。 それを聞くは魔法学院の生徒達。未だ年端もいかない少年少女たちであった。アニエスを中心に、銃士隊が数十名、集められたトリステインの生徒をにらめつけるかのように円陣を組んでいる。 その外側にコルベールら教師たちと、ルイズたち生徒が並ばされていた。 「やれやれ、学生までも動員するとは」 前列に並ぶオールドオスマンは、アニエスわざと大きな声で独り言を喋った。 教師陣がアニエスの通達--生徒から志願兵を募るというトリスタニア王室の決定--を伝えた時、教師陣には少なからぬ反対の声が上がった。だが、その声のいずれも弱く、アニエスが一言、 「アンリエッタ閣下の勅命である」といわれると誰しもも黙り込んでしまうのであった。 そのような教師たちの嘆きも、生徒達はあまり気にしていない風である。その証拠に、どこからか男子生徒の、のんきなおしゃべりが聞こえる。 「それにしても、見ろよあれ。近衛隊の隊長は剣を持っているぜ。メイジじゃないのかな」 「しらないのか、マリコルヌ。最近できた銃士隊ってやつで、隊員はみな若い女性の平民なんだ」 「なんだって、ギーシュ。若い女性なんて……それはうらやまし……じゃなかった、けしからんな」 「うむ。大変いやらしけしからん」 オールドオスマンはため息をついた。昨日のコルベールとのやり取りを思い出す。 『私たちはどうあっても生徒たちを戦場に送らなくてはならないのでしょうか』 『王命は絶対じゃよ。今回の勅は女王陛下の懇願という形をとってはいるがの。実態は変わらん』 『それはわかりますが……彼らトリステイン魔法学院は我々の生徒です。王室が教えているわけではありません』 『気持ちはわからないではないがの。じゃが、それ以上の発言は、王室への反逆とも受け取られかねない……察してくれい』 『……はい』 オールドオスマンは、どこか近くの男子生徒の声で現実に引き戻された。 「おいギーシュ、君は志願するのかい」 「ああ、兄上たちはすでに従軍している。ここで従軍しないのは一族の名折れだ。そういうマリコルヌは?」 「僕はもちろん参加するよ。前から海軍服にあこがれていてね……その、なんだ、下品なことをいうようだが……あれを女性が履いてくれるのを想像しただけで……『……』してしまってね……」 「そっすか……」 「フゥ~~。だれか可憐な女性が、あのすばらしいセーラー服を着てくれないかなぁ~?」 そこまで聞いて、オールドオスマンとコルベールは同時にため息をついた。いったいこの学院はどうなってしまうのだろうか。 「ちびルイズ、あなた結婚しなさい」 トリステイン魔法学院に来たエレオノールは、ルイズの部屋に入ってきて開口一番、そういった。 「あなた結婚して婿をとりなさい。一刻も早く。そうすれば、アンリエッタ姫様も、そういうことならと、あなたを無理に近習にしようとはしなくなるでしょう。ルイズの庇護はヴァリエール家が受け持ちます」 「な、どういうことだ?ルイズ」露伴が言った。 「アンリエッタ陛下は、ルイズの『虚無』について、非常に深い憂慮をされているわ。陛下はルイズを近習におくことで王宮の庇護を受けることを思いついたけど」どうやらヴァリエール家では、王宮の案は不満があるらしい。今のトリステイン王国はレコン・キスタとの戦時である--戦時において、女王や近習は戦争のもっとも俯瞰しやすい位置にあることが多い。それはすなわち、死の危険にさらされやすいということを意味する。戦況の流れによっては、近習のルイズが戦の最先端の場に立たねばならない危険がが常ならぬ確立で発生するのだ。 「そんな、姉さま。まだ私は結婚なんて考えていないわ」 「なに言ってるの!あなたの年では貴族は結婚してもよい年頃よ!それを『まだ』ですって?生意気言うのも大概にしなさい!」 「だって……好きでもない人と結婚なんて、私……そんなに結婚が好きなら、エレオノール姉さまがまた結婚すればよいじゃ……あ……」 「なにか、言った?」 空気が凍った。 「いえなんでもないですお姉さまなにもいってないです……あいひゃひゃひゃひゃ!」 エレオノールはルイズの頬を思いっきりつねる。 「それくらいにしてやれ、エレ」 「ブチャがそこまで言うのなら、仕方ないわね」ブチャラティの言葉に、エレオノールはルイズへの攻撃をやめた。 ブチャラティとエレオノールが出会った日のこと、すなわち、ルイズとシエスタが零戦のことでアカデミーに足を運んだ日の晩に、ブチャラティとエレオノールは決闘を行っていたのだ。 実に激しい戦いであった。実際にその現場を見るものは、まさに『竜虎相打つ』という比喩を地で行っていた戦いであったと証言している。エレオノールが魔法で攻撃を仕掛ければ、ブチャラティはスタンドで柱を壊して応戦する。闘いはいつしか、夕闇があけるまで続いた。決着はついたのか?勝利の女神はどちらに微笑んだのか?それは誰にもわからない。長い時の後、残ったのは、アカデミーの研究棟の残骸と、傷だらけで連なり、横たわるエレオノール、ブチャラティであった。 そう、二人は「戦友」と書いて「とも」と呼ぶような関係になっていたのである。 「でも、あなたは見合いをしなさい。わかったわね?」エレオノールはルイズの鼻に人差し指をおったてて言い放ったのだった。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――― エレオノールがやってきた次の日。今日は虚無の曜日、授業はお休みである。 ルイズと露伴、ブチャラティは、ルイズの部屋で休日を満喫していた。 「ルイズ、何だが部屋の外がおかしくないか?」 そう言ったのは岸辺露伴だった。窓にかかったピンクのカーテンが、風に揺られて外にはみ出している。 「そう? こんな真昼間ですもの。ギーシュあたりが決闘しているんでしょ」 ルイズはそう思ったが、露伴に、ブチャラティは違う意見のようだ。 「いや、ルイズ。何かが起こっているぞ。窓から中庭の様子が見られるが、生徒たちが集まっている。ここからだと、おびえているようにも見える」ブチャラティが言った。彼は窓辺から上半身を乗り出す。彼が指差した、中庭が見渡せる窓の先には、三十人ほどが集まって中央塔に移動している様子が見えた。 「様子を見に行ってみようぜ」 露伴はルイズの部屋を飛び出した。 「ルイズ。君はどうする?」 「そうね、暇だし。ブチャラティ、私も行こうかな」 「ならば、露伴に追いつこう」 そういって、二人はルイズの部屋のドアを開けたら、 露伴がうつぶせに横たわっていた。露伴の手の甲はぴくぴくと痙攣している。 「どうした、露伴?」ブチャラティが露伴の背に手をかけると。 ピョン。 一匹の美しくも青い蛙がブチャラティの手に乗った。 「危ない!」ルイズが、持っていた杖でその蛙を乱暴に叩き落とす。 「どうした、ルイズ」 「ブチャラティ、いま蛙が触ったとこ、なんともない?急いで水で洗い流しなさい」 ふと見ると、ブチャラティの手がやけどをしている。ルイズは図鑑でその生物を知っていた。 「アレはヤドクガエルの一種。下手に触ったら命にかかわるわ」 「おい、露伴、大丈夫か?」 ブチャラティが急いで露伴を起こそうとするが、うまくいかない。 ルイズも手伝って、ようやく露伴を仰向けに向けさせたら、 彼の表半身は、一面ヤドクガエルに覆われていた。 急いで蛙たちを払いのける。露伴の意識は既にない。痙攣している。 「しっかりして! 急いで先生に報告して水の魔法をかけてもらわないと!」ルイズがあせる。「落ち着け、ルイズ。妙だと思わないか?部屋の中にこれだけの毒ガエル。何らかのスタンド攻撃と思っていいだろう」 「じゃ、じゃあ!」 「露伴をできるだけ早く先生の下へ連れていことも必要だが、この意味不明な攻撃をどうにか『いなすこと』を考える必要がある。特にわれわれが再起不能になると、露伴も助からないと見てよいだろう。だが、まずは『落ち着け』」 ルイズは、自分の使い魔の迫力に思わず後じさった。だが、それだけでは悔しいので、両手に力こぶを作って返事だけはした。「わ、わかった……がんばる」 「よし、そのいきだ」 「で、具体的にどういった対策をとるの?」 「自分の姿を見せずにヤドクガエルを使ってきているところを見ると、敵スタンドは遠距離タイプの可能性が高い……それならば、敵の本体を見つけだしてたたくのが定石だろう」 「でも、そんなことできるの?」 「『できるか』『できないか』じゃない。やるしかないんだ」 「そうね、私も覚悟を決めるわ」ルイズは大きく息を吸い込んだ。 「そうだ、ルイズ。以前君が試していた虚無の魔法。アレが使えないか? 確か、『ディスペル』とかいったな……」 「どういうこと?」 「もしこの蛙自体がスタンド本体で、毒がスタンド能力であるのならば、わずかな可能性とはいえ、君の虚無の魔法がスタンドに利く可能性がある。何も敵本体を倒さなくても、この場で露伴を助けることができる」 「わかったわ……」ルイズは自身の小さな口で、一生懸命詠唱を始めたのであった。 話は直前にさかのぼる。 『落ち着け』といったブチャラティも、内心ではかなり動揺していた。 二人はとりあえず露伴をルイズの部屋に残し、廊下へと出た。 「くれぐれも慎重にな」 「ええ……ッ、あそこ!」下へと続く階段の壁に、一匹の蜘蛛がへばりついていた。大きさは人の握りこぶしくらいある。 「なにかしら。いかにも毒があるっていう感じの色合いだけど……」 ブチャラティはスタンドを発現させ、壁の敷石を握り拳の分だけ切り取った。それを蜘蛛に向け投げつける。蜘蛛は瓦礫につぶされ、ドメチッと言う奇怪な音をさせてつぶれた。 ブチャラティは近づいて蜘蛛に触れた。反応はない。 「問題ないみたいね」ルイズがほっとする。 「とりあえず中央塔へ行くぞ」 そういって階段を折り始めたブチャラティだったが、とたんに体制を崩した。 「大丈夫?」とっさにルイズが支えるも、一緒に崩れ落ちてしまった。 「ブチャラティ!あなたの足!」 彼の足からつくしのような細長いきのこが何本も生えてきている!その茸はウジュルウジュルと蠢きながらも成長を続けていた。 「大変!早くあなたのスタンド『スティッキィ・フィンガーズ』で除去して!」 「ルイズ、俺に近づくな!」 そういわれたルイズは、びくりと身を震わせた。 「正確には『俺に近づくことで身を下に下げるな』ということだ」 「え?」 「みろ、今のこの茸は生長していない……が、こうすると生長する」 ブチャラティが足を階段を下に向けると、ブチャラティの足の茸が生長をはじめる。彼ィが足を下げるのをやめると、茸の膨張も止まった。 「俺はかつてこの手のスタンドに極めてよく似たスタンドに出会ったことがある。そのスタンドは、『人に寄生し、下に移動すると同時に発現を始める黴』だった。だが、これは……?」そのとき階段の下から足音が響き渡った。 コツコツ…… 「誰か来るわ!」 「慎重に構えろ、呪文の詠唱の準備をしておけ……」 そのとき、階下から少年らしき者の声が鳴り響いた。 「さすがはブチャラティといったところか……かつて『グリーン・デイ』と対戦しただけのことはある……」 その声にはブチャラティには聞き覚えがあった。 「ローマのコロッセオ前であった少年……か?」 「僕の名はドッピオ。パッショーネの『ボス』の部下といえばわかるかな? 『コロッセオでの精神の入れ替わり』の時、ボスの体にいたのが僕さ」 「そうか、貴様、ボスの分裂した精神の片割れか!」 「人聞きの悪いことを。僕はボスのもっとも忠実な部下だ」 「これはお前のスタンド能力か?」 「……『冬虫夏草』だ」 「何を言っている!」 「君の疑問に答えよう。そうとも言う……君の足に生えている茸は、かつての『グリーン・デイ』と同じ性質を持った茸でね……宿主が下に移動すると発芽する性質を持つんだ……僕がその茸の生命を生んだ」 「『生んだ』だと?そのような能力があるのは、俺はかつて一人しか知らない!」 「そう、『新入り』の能力、『ゴールド・エクスペリエンス』だよ」 金色の外殻に、黄金色のシルエット。 それは、まさにブチャラティがよく見知ったスタンドのビジョンであった。 「なぜ貴様がその能力を持っている!そのスタンドはジョルノが本体のはず!」 「今は僕が主だ。そして……」ドッピオが右手を振ると、そこに赤いさそりが出現した。「このクソッたれの能力が僕とボスの野望をもう少しのところで断ち切ったんだ」 「なるほど……お前はコロッセオでミスタに撃たれて死んだものと思っていたが……貴様もこの世界に喚ばれて『復活』したくちか……」 「直接の恨みはあの新入りにあるが、この際ブチャラティ、君にも復讐を果たしておこう」桃色の髪をした青年は、そういってブチャラティの五メイル手前に足を踏み出した。 「どうする?岸辺露伴を助けたいのなら、君たちは僕を倒して下の階に進まなくてはならない」 「そうだな……そして、俺が階段を下りることはできない……とでも言うと思ったか?」 ブチャラティは一気にドッピオの元へと階段を駆け下りた! 「馬鹿なッ!」 「タバサッ!」ドッピオとブチャラティの叫び声は同時であった。 階段の外壁を破壊して侵入してくる竜が一匹。その上に青髪の少女が乗っていたのをブチャラティは見逃さなかった。 タバサは、ブチャラティの足に『ウィンディ・アイシクル』の魔法をかける。彼の足が見る見る凍りつき始めた。だが、その足でも、ブチャラティはドッピオの目前に移動することができた。 「冬虫夏草は暖かくなると発芽する!逆に言えば、寒い冬の時は、発芽しないのだ!」ブチャラティはゴールド・エクスペリエンスの首根っこをつかみ、スタンドの拳をその肉体に叩き込んだ。胴体に三発。両腕に二発ずつ『ジッパー』をつりつけたところであのスタンドは消滅した。 「なかなかやるじゃないか」そう、不敵に笑うドッピオの顔には、ブチャラティは焦りの表情を見出せなかった。むしろ勝者の余裕ささえ感じる。 「ならば、ひとまず退却するか……」 そういった直後、ドッピオの姿はブチャラティたちの目の前から掻き消えた。 「大丈夫、ブチャラティ?」 「無事?}駆け寄る二人の少女の声が聞こえないほどに、ブチャラティの頭脳にとある疑問が駆け抜けていった。 「……何かおかしい。つじつまが合わない」ブチャラティにとって、この感覚は前にも味わったような気がする…… あれは…… 「何が?今は露伴が危ない」タバサが言った。 それにつられてルイズも叫ぶ。「それにここにいたんじゃ他の生き物の攻撃にさらされる可能性がどんどん高くなっていくわ。さっさとここから出ましょう」 この奇妙な違和感……サン・ジョルジョ・マジョーレ教会での感覚か……? 「……それだ」 「どうしたって言うの?この状況下では他の生徒も被害になっている可能性が高いわ。そうなると水魔法の使える先生も無事かどうかわからない。いいえ、仮に無事であったとしても、他の生徒の治療でとても忙しいはずだわ」 そうかッ! 「おかしいと思っていたッ! これだけ生物の攻撃を受けていながら他の生徒の叫び声がまったっくないことに気がつくべきだった!これは真実ではない!幻覚か何かの類だッ!」ブチャラティがそう叫ぶと同時に。ルイズの姿がとけ去った。いや、ルイズの残像を中心に廊下全体が解け始めている。ブチャラティは、意識が浮かび上がるように、奇妙な感覚で意識を失っていった。 「……ハッ!」 「……ようやく、気がついたようね」ルイズが言う。 ここはまだルイズの部屋。調度品が生クリームのように溶け出している。 ブチャラティとルイズは対面でテーブルに座っていた。二人はテーブルに突っ伏すような形で、動けなくなっていた。 「これは……いったい?」そういったブチャラティは眠気で意識が飛びそうになる。 「わからないわ……でも、これが敵スタンドの攻撃なのは確実……そして露伴が倒れているのも真実よ……」 「そうか……ならば……」 『スティッキィ・フィンガーズ……』 「なに?」 「ちょっとの痛みは我慢しろ」 ブチャラティはそういうと、テーブルの真下にジッパーを取り付けた。 石畳に取り付けられたジッパーは音もなく開いていく。 「え、ちょっと……」ルイズがそういうまもなく、二人はテーブルごと下の階に落ちていった。 「……ぃいたぁあい!」 「この下に落ちた痛みは現実のようだな」 「当たり前よッ!このむかつき!絶対に幻覚のわけがないわ!」ルイズはブチャラティを下敷きに、内股でうずくまるような体勢でかがんでいる羽目になった。頭をさすっている。どうやら、ルイズは頭を打ったらしい。ブチャラティは腰をさすっている。二人が落ちた先は、誰も使っていない部屋になっており、ところどころ埃がたまっていた。 「ところで、俺の見た幻覚の中にタバサが出てきたんだが、もしかしたら彼女もスタンド攻撃を受けている可能性がある」 「そう。なら、彼女と合流するのは結構いい案かもしれないわ。こちらの戦力にもなるし、案外二人だけよりも早くこの寮を脱出できるかも」 ルイズはそういうと、制服についたほこりを手で払いのけた。そのまま勢いよく立ち上がる。 「確かタバサの部屋は私のいっこ下の階のはず……この階よ」 「なら、いこう」 二人は部屋を出た。あたりをうかがう。すると、廊下を隔てて女性との叫び声が聞こえてきた。 「助けてッ――」 ルイズは、背後でブチャラティが戦闘体勢に入るなか、声がした方向のドアに向かって杖を振った。『アンロック』の魔法である。ルイズは、タルブの村での戦いの後、基礎の魔法ならば使えるようになっていたのだった。 部屋の内部は不気味なほど静かだった。 「誰もいないじゃない」 「いや、クローゼットが少し空いているようだが……」 「そう?私の方角からだと、ちょうど逆光になって見えないわ。それになんだかここ、直射日光が入ってきているとはいえ、妙に明るいわ」 「うん。気をつけよう」 クローゼットを開けると、果たして一人の女子学生が中に潜んでいた。うずくまってないているようだ。ちょうど暗がりに潜んでいる。顔だけ見える。 「シクシクシク……」 「あなたケティじゃないの?どうしたの?こんなところに隠れているなんて。あなたもやっぱり蛙とか蜘蛛とかに襲われたの?」 「虫がぁ……」 「虫?」 「むぅしぃがぁ~。わぁたぁしぃをたぁべぇるぅのぉ~」 開かれたクローゼットから現れたケティの背中には、あろうことか、カタツムリの殻が大きくのっかかっていた。彼女の背中と、まるで溶接しているかのように接着している。
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『キュルケ怒りの鉄拳 その1』 数時間後、部屋に戻るとルイズは床についていた。 ベッドの上には、おそらく「サモン・サーヴァント」にまつわる本だろう、 数冊、数十冊の書物が雑然と積み重ねられ、 その間に挟まるようにして仰向けに倒れていた。 途中で力尽きてしまったか。ランプはつけっ放し、服さえ着替えていない。 ルイズはルイズで大変そうだったが、 ドラゴンズ・ドリームにもやらねばならないことがある。 ひそひそと囁かれる陰口、品の無い馬鹿話、シュールなジョーク、 教師のぼやき、とりとめの無いおしゃべり、思わず出た独り言。 これら各所で盗み聞きしたものに各人の吉凶とパーソナリティーを加え、情報収集は概ね完了した。 あとは集めた情報から取捨選択を繰り返し、必要なもののみを取りまとめ、現況を知ろうとはかる。 ここはハルケギニア大陸のトリステイン王国であり、この学校はトリステイン魔法学院である。 宗教学校ではなく魔法学校だったというわけだ。 空を飛ぶのも魔法、火を出すのも魔法、ページをめくるのも魔法。 便利なものだ。その調子でスタンドも見つけてほしい。 ここで魔法を学ぶものは例外なく貴族である。 ビッチ系ビッチとは一線を画す何かがあるとは感じていたが、貴族だったとは。 月明かりのベランダで恋人と差し向かいにワイングラスを傾けたり、 妖しげな仮面をつけて舞踏会で踊り明かしたりしているということか。 なかなか楽しそうではある。 魔法には様々な系統がある。 スタンドに近距離パワー型があったり遠隔自動操縦があるのと同じだろう。 ルイズは常に魔法を失敗する。 そのことからついたあだ名は、ゼロのルイズ。 エリートの中の落ちこぼれというわけだ。 落ちこぼれ以前の状態になってしまったドラゴンズ・ドリームは身につまされる。 ギーシュは皆に不幸を振りまく。 近いうちに何かが起こるはずだが、それが何かは分からない。 キュルケの活躍に期待しておくとしよう。 現在は新学期への移行期間である。 これは大して重要ではない。問題は次だ。 使い魔を召喚できなければ二学年へ進級することはできない。 キュルケの挑発、普段の魔法成功率、草原でのやり取り、その後のルイズ。 これらの事実から、ルイズはサモン・サーヴァントに失敗したらしい。 まだ留年が確定したわけではないが、チャンスは明日一日のみ。 挑戦だけなら何回もできるだろうが、時間的にも体力的にも限界がある。 まだ使い魔を召喚していないのはルイズだけではないし、 他の予定を押してまで個人を優先させるわけにもいかないだろう。 ルイズの焦燥感たるや並々ならぬものがあるはず。 主な情報は以上だ。 だが、他の人間が知らない、この学園の中ではドラゴンズ・ドリームしか知りえない情報もあった。 「実のトコよォ……ルイズは召喚成功してンじゃネェーの?」 本体を失ったばかりのドラゴンズ・ドリームが、あの草原にあらわれた。 泥棒のアンラッキーパーソンは、存在しないはずのルイズの使い魔だった。 ほんの少し、わずか、ちょっぴり、注意しなければ気がつかないほど微かだが、 他の人間よりもルイズを重視しているような気がしなくもない。 中立を旨とするスタンドとしては異例中の異例だ。 使い魔としての召喚がドラゴンズ・ドリームに作用しているとしか思えない。 使い魔は「サモン・サーヴァント」で召喚し、 「コントラクト・サーヴァント」で契約しなければ正式な使い魔として認められないらしい。 つまり、ルイズは召喚に成功したものの、 ドラゴンズ・ドリームが不可視だったゆえ存在に気づかず、 召喚は失敗してしまったのだと思い込んだ。 そのために「コントラクト・サーヴァント」をすっ飛ばし、 ドラゴンズ・ドリームは非常に中途半端な状態で漂っている。 「オレの方から契約スりゃイイッテことかァ?」 そうすればドラゴンズ・ドリームの立場は完全に固定される。 使い魔と主の間は強い絆で結びつき、 ルイズはドラゴンズ・ドリームの姿を見、声を聞くことができるようになる。 だがそう簡単に契約していいものだろうか。クーリングオフの制度があるとは思えない。 とりあえずメリットとデメリットを比べてみよう。 メリット。 ドラゴンズ・ドリームの存在を認めてもらえる。 話し相手ができる。しかもルイズだ。 能力を役に立ててもらえる。きっとルイズなら使いこなす。 ルイズがゼロと呼ばれることはなくなるだろう。喜ぶに違いない。 デメリット。 契約すれば、残り半生を使い魔として費やすことになる。 主人のため身を粉にして働かなければならない。 「スタンドなんだから当たり前ジャねェーの?」 ルイズの使い魔。本当にそれでいいのだろうか。 「ソリャいいダロ」 他の使い魔達が食堂や寝室には入れてもらえないところから察するに、 待遇的には奴隷か家畜、せいぜい愛玩動物だ。 「今まで通りッてコトネ」 確実に行動範囲が小さくなる。 「ヤッパ今まで通りダねェ……アレ? 悪くないンじゃネェーの使い魔」 契約の仕方は分かっている。お姫様とキスをすればいい。 ベッドの上のルイズはどことなく屈託のある様子で眠っていた。 夢の世界でも焦燥感と緊張感を感じ続けているのか。 白く柔らかそうな頬の上には涙の通った跡がある。 ドラゴンズ・ドリームはベッドの上まで浮遊し、真下を向いてルイズと顔を合わせた。 「……後で怒られタリしネェーヨナ?」 少し迷ったが、結局のところはルイズのためだ。 思い切ってルイズに向かう。 「……そういやオレファーストキッスダな」 あと三十センチ。二十センチ。十センチ。五センチ。 唇同士が触れ合う直前でルイズの口元が消し飛んだ。
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「…何だこいつは」 「よぉ…兄貴…」 夜、ルイズの部屋の前には何故かデルフリンガーにブッ刺されたハムが置いてあった。 とりあえずデルフリンガーからハムを抜きかじる。不味くは無い。 「…何があった?」 「いや、兄貴があのメイドの娘っ子と一緒に馬乗ってるとこ見た嬢ちゃんがな…」 「アレか?馬乗ったことねぇっつーから乗せただけだが…」 「…兄貴そっち方面に関しては結構天然なんだな」 メローネ曰く 「本人にその自覚が無いだけ周りに与える影響がディ・モールトヤバイ。ありがちなジャッポーネのゲームの主人公ぐらいに」との事 「まぁ、そういうわけで嬢ちゃんがプッツンしてハムに刺されたってわけでな」 ハム=生ハム=プロシュート。だろうと検討を付ける。そのハムを刺しているという事は、締め出し継続という事だろう。 「仕方ねーな…まぁいい、明日からはオメーにも手伝ってもらうからな」 「手伝う?何をだ?」 「仕事だ」 それだけ言うと、ハムとデルフリンガーを持ち歩き出す。 「なんの仕事か分からねーけど、今日はどうすんだ?」 「寝る」 「どこで?」 「マルトーが使用人の部屋使っていいつったからな」 その部屋の扉を開け、上着を脱ぎ寝る。 後ろの一人を気にしながら馬を走らせたため例によって疲労感があり、すぐに寝た。 しばらくして、部屋に入ってくるのは熱の流法絶賛習得中のご存知シエスタだ。 本来、他にも使っているのだが、マルトーの深読みしすぎた計らいにより二人のみとなっている。 「おでれーた…これ嬢ちゃんが見たらどえらい事になるな」 スデに体力&精神力回復状態に入っているプロシュートは眠っている。 左腕を頭の下に、右手を腰のあたりに乗せ そして、シャツのボタンを下の方だけ留め胸元を出しているという結構セクスィーな姿で。 そっち方面の趣味の方が見れば間違いなく『や ら な い か』突入というところである。 そんなプロシュートを見てシエスタが大きく息を吸い 「ちょっとだけ…ちょっとだけなら…」 と呟きつつ対象へと近付く。 (おいおいおいおいおいおい!こいつは兄貴色んな意味でヤベーってか普通逆じゃねーの?) ヤバイとは思うが、声には出さない。この剣、何だかんだで結構楽しんでいる。 ゆっくりとだが万力を締めるような動きで近付き、開いている右手を握った。 (へ?それだけ?つまんねー) シエスタにとっての不幸?は―プロシュートが、この世界に来るまで常に臨戦態勢であったという事。 逆に幸運は―プロシュートが、グレイトフル・デッドを出しながら眠っていなかった事。 プロシュートにとっての不幸は―疲労と、まだ完治しきっていない怪我で、ここが別世界という事を忘れているという事。 逆に幸運は―この世界に暗殺チームの仲間が居ない事。 右手を握った瞬間グィィッっと腕が左上の方に振り払われ、当然その手をしっかり握っていたシエスタがバランスを崩して倒れ込む。 「グレイトフル・デッ…!…何やってる」 スタンドを出現させた分、タイムラグが生じギリギリ直触りを仕掛ける一歩手前で止まった。発動してたら多分再起不能になる。責任取ってくださいどころじゃ済まない。 プロシュートが下!シエスタが上だッ!の状態でテンパりながらシエスタが答える。 「え、いや!あの!…右手!右手がですね…!」 右手?と疑問符が浮かび自分の右手を見る。掴んでいる、どう見てもシテスタの手を掴んでいる。 さすがに、状況が掴めない。寝ていたはずなのに、なして手を掴んでいるのかと。 (…直触りでも仕掛ける夢でも見たか?) と思いっきりズレた思考を張り巡らせていると 「おーい、明日の食材の搬入について聞き忘れた事があ………スマン邪魔したな」 お約束のように入ってきたのは料理の事ならトニオさんの次にスゴイナンバー2、マルトーであった。 「ちちちちちち、違いますマルトーさぁぁぁぁぁぁん!」 必死になって否定するが、もーマルトーは止められない。 「だから言っただろ?鍵しとけって。しかし、まぁ…おまえさんの方が仕掛けるとはなぁ…」 感慨深げに目を閉じながら一人うんうんと納得したかのように首を縦に振る。 「不可抗力…不可抗力で、こ、こうなったわけなんですよ~~」 「心配するな、誰にも言いやしないからよ」 「何なんだマジで…」 「…兄貴マジで天然なのな」 「それじゃあな、シエスタ。未来の旦那さんとよろしくやってくれ。鍵忘れるなよ」 廊下をスポットライトが当ったような明るさでマルトーが去る。 完璧に自分が押し倒していたと思われorzの形でへたり込む。 が、そこに懐かしい祖父の声が聞こえた (何?押し倒したと思われた?逆に考えるんじゃ『押し倒して事実にしてしまえばいい』と考えるんじゃ) それにしても、このジジイ外道である。 「分かりましたおじいちゃん!『女は度胸!何でもためしてみるもんさ』ってよく言ってくれた、それですね!」 微妙に間違っているが、『覚悟』を決め後ろのリボンを解きエプロンを床に落す。 「せせせ、責任取ってくれなんて言いませんから、その・・・・・・プロシュートさん?」 寝ている。もう思いっきり寝ている。 (…兄貴は、これで素なんだよなぁ。もったいねぇ) このギャング、弟分相当の人間と仲間の状態はよく気付くが、それ以外の事はマジ疎い。 ギャングになる前、女性と付き合った事が無いというわけではないが、根っからの兄貴気質なのであまり続いてなかったりする。 面倒見と顔は良いため固定ファンが居たぐらいだが、ギャングになってからはさすがにそんなものも居ない。 「わたしって魅力無いのかしら…」 そう言いながら、自信を失ったかのようにため息を付く。 起きていれば多分、説教開始だが当人が寝ているためそれは起こらない。 モンモンとした気分でベッドに潜り込み布団を頭まで被り、色々まぁR指定一歩手前な想像をした後、寝た。 それから数日経過したがプッツンしっぱなしのルイズが昼頃プロシュートが毎日馬に乗って出かけているのを見付けた。 「ご主人様を放って何やってるのよ…!あのメイドは一緒じゃないみたいだけど」 自分が締め出している事は思いっきり棚に上げているが、毎日放っぽり出されるのは気に入らないご様子。 「昨日真夜中に帰ってきたのを見たけど何してるのよあいつ……まさか!いえ…でもそんな…だけど剣持ってるし…それに確か」 (そうなってくるとオレとしては脱走し資金・食料を得るために どこかの貴族の館に押し入りそいつの家のベッドの上には見知らぬ老人の死体が転がってるって事になるな) 「こんな事言ってたわよね…」 「な、何が目的だ!」 「答える必要はねーな」 その館には二人の男しか居ない。他は全て朽ち果てている。 「貴族にこ、こんな真似をしてただで済むと思っとるのか!この私を誰だとおもっちょる!死刑だ!死刑にしてやる!」 「なに…オメーが心配する事じゃあねーよ。朝、見付かるのは身元不明の老人の死体なんだからな…」 ズキュン! 屋敷から出てくるプロシュート。だがその背にはその館にあった財宝が詰め込まれていた。 「貴族つってもシケたもんだな…次は王室を殺るか…」 トリステインの貴族の館が次々と襲撃される事件が勃発するが、それは遂に王室にまで及ぶ事になる。 秘法が全て盗み出され城に残ったものは兵士とメイジの朽ち果てた死体。そして王女―アンリエッタまでもが朽ち果てていた。 「そんな事になったら…破滅だわ!…どうしよう…ヴァリエール家がわたしの代で終わるなんて…ちいねぇ様ごめんなさい!」 壁に頭を打ち付けながら犯罪的想像をしているが遂に決意したかのように立ち上がる 「フフ…ウフフフ…これは…犯行現場を突き止めて躾けないと駄目みたいなようね…」 ドス黒いオーラを出しながら後を追うべく厩舎へと向かうが後ろから有無を言わさない声がかかった。 「ほーう…この『疾風』のギトーの授業をサボってどこに行こうというのかね?」 教師陣知名度ワーストナンバー1のエセスネイプことギトーであった。 「行かせてください!ヴァリエール家の未来が懸かってるんです!」 「…ヴァリエール家の心配より君の単位の心配をしたまえ」 単位!それは学生生活においてかなりのパーセンテージを秘める言葉ッ! 現在、魔法成功率ゼロのルイズにとってそれが一つ減るだけでもディ・モールトヤバイ! 「…分かりました」 素直に従うルイズを見て教室に向かうギトーだが、歩の速度を落したルイズが少し距離を開けた瞬間…逃げた。 「かかったなッ!アホがッ!!」 「偏在だ」 「ふぎゃ…!」 杖で思いっきりシバかれたルイズが引きずられるように教師に運ばれた。 「それとオールド・オスマン師が呼んでいたので授業終了後に向かうように」 「S.H.I.Tッ!王室もロクなもんを送りつけてこんのぉ…まがいものにしても文字すら書かれておらぬではないか」 オスマン自身各地で始祖の祈祷書と呼ばれるものは幾百と見てきたが何も書かれていないというのは初めてだ。 そこにノックの音がした。 「秘書を雇わねばいかんな…また酒場に行くかの!…コホン!鍵は掛かっておらぬ。入ってきなさい」 それにしても、このジジイ全く懲りていない。 入ってくるなり開口一番ルイズが口を開いた。 「話というのは…まさか!プロシュートがどこかの屋敷を!?そうなんですねオールド・オスマン!!」 「お…落ち着きなさいミス・ヴァリエール。君の使い魔の事ではない」 かなりテンパっているルイズに少し引いているオスマンだが思い出したかのように祈祷書を差し出した。 「何ですかこれは?…まさか、ヴァリエール家取り潰しの……!!」 「…ミス・ヴァリエールの使い魔は何かやらかしたのかね?」 「あ…いえ、それでこの本は?」 墓穴掘ったと後悔しつつ話題を変えるべく話を本に戻す。 「始祖の祈祷書と言われるものでな、王室の伝統で王族の結婚式の際には貴族より選ばれた巫女が祈祷書を手に詔を詠みあげねばならん」 「それで、わたしが呼ばれた理由は?」 「姫がその巫女にミス・ヴァリエールを指名しておる」 「姫様が?」 「うむ、巫女は式の前より、この『始祖の祈祷書』を肌身離さず持ち歩き詔を考えねばならぬ」 ぶっちゃけ、今にもプロシュートが王室を襲うのではないかと気が気ではない状況なのだが姫様の頼みであるなら断れない。 「み、詔もわたしが考えるんですか!?」 「草案は宮廷の連中が推敲するじゃろうから心配せずともよい。伝統というものは厄介なもんじゃのぉ だが、ミス・ヴァリエール。逆に考えるんじゃ『王族の式に立会い詔を読み上げるなど一生に一度しかできない』と考えるんじゃ」 「わ、わかりました。謹んで拝命いたします」 (ヴァ、ヴァリエール家の未来が…でも姫様の頼みを断るわけにもいかないし…!) その後、さらに数日経過し虚無の日になったが肝心の詔はキレイサッパリ浮かんでこない。 「我々は一人の英雄を失った、これは敗北を意味するのか!否、始まりなのだ!」 ボツ:英雄がウェールズなのでこんなの結婚式で詠みあげたら同盟破棄は確実。 「ウェールズは風になった――アンリエッタが無意識のうちに取っていたのは敬礼の姿であった―――涙は流さなかったが無言の愛があった――奇妙な友情があった――」 ボツ:上に同じ 「『真実の愛』がある、そして『結婚』がある。昔は一致していたが、その『2つ』は現代では必ずしも一致していない 『真実の愛』と『結婚』はかなりズレた価値観になっている……だが『同盟締結』には『結婚』が必要だ…… 二人にもそれがもう見える筈だ……式を進めてそれを確認しろ…『仮面夫婦への道』を…わたしはそれを祈っているわ、そして感謝する ようこそ……『政略結婚』の世界へ…………」 ボツ:同盟云々より自分の命が危うい 「駄目ね…思い浮かばないどころか色んな電波を受信してる気がするわ…」 気晴らしに部屋の外に出るが、再びプロシュートとシエスタが馬に乗ってどっか行くのを見つけて一時間程固まった。 風上のマリコヌル ― 露伴ちゃんのように爆破され死亡 「………アギ……」 あ、まだ生きてた。 「タバえも~~~~~ん!」 と今にも叫ばんばかりにタバサの部屋の前にダッシュかまし扉を開けようとするが、扉に鍵が掛かっていてノックしてもなんの返事も無かったので…『爆破』した。 「ねぇーーーーーーー!シルフィード出してぇーーーーーーーーー!」 始祖の祈祷書片手に、部屋の中に突入するが誰も居ない。が、後ろから声が掛かった。 「あたしも『アンロック』ぐらいした事はあるけど、爆破ってのは無いわよ?」 「タバサ知らない!?というか教えなさい!」 「あの子なら…ヴェストリの広場でシルフィードと一緒だったけど…今は近付かない方がいいわよ…ってもう居ないわね」 全力疾走でヴェストリの広場に向かうが…何故か広場から煙が湧き上がっていた。 (お、おねーさまは一体なにを…) 「次は…海草 そしてワイン 豆を入れた後…野菊…干し芋 鱒 バター」 鍋の中に次々と素材を入れていく。 「そして…はしば…はッ!コフン…!ケフ…!………草」 (なんの草ですかーーー!) 大量のはしば…ゴフン!ゲフン!草を入れ仕上げに入る。 そしてその上澄み汁を水筒に入れた。 「……味見したい?」 (遠慮しますおねーさま) 「そう…気に入ったの。たーんとお飲み」 (逃げるんだよォーーーー!…っておねーさま尻尾は…!きゃうぅぅぅ!尻尾はダメって…!) 逃げようとするが尻尾を思いっきり捕まれシルフィードが悶えているとこにルイズが現れた。 「丁度良かったわ!シルフィード貸して!ヴァリエール家の危機!OK!?分かったなら乗せて!」 「虚無の曜日はこの子は動かないわよ。何があったの」 必死こいて説明するが、強盗だの、メイドだの挙句ヴァリエール家取り潰しの危機だと話が繋がっていない。 「ほら…口開けて」 (おねーさま、そ、そんな無理矢理…だ、ダメです!) 「えーっと話を繋げると、ダーリンがメイドと一緒に馬に乗って強盗しに行ってあなたの家が取り潰されるって事?」 (うぁぁぁぁ、も、もうダメ!は、入っちゃう!水筒の先が入っちゃうぅぅ) ダーリンと聞いたタバサがもう今にもシルフィードに飲まそうとしていた水筒を引っ込め、その背に乗り込む。 (た、助かったぁぁぁ) 「どっち?」 「分かんないけど方角は城下街の方だったわ!」 「馬一頭。見付からなかったら飲ます」 (ごめんなさい、ごめんなさいおねーさま。頑張って見つけるからそれだけは許してください) 「この子が自分から動くなんて珍しいわね。あたしも行くわ」 2時間経過したが依然として見付からない。 タバサが水筒に手をやりシルフィードの頭に近付く。 (ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナ…居ました!おねーさま!!) シルフィードの目を通してタバサが二人を確認し水筒を収める。 「どこ!?どこに!?早くしないとヴァリエール家がぁぁぁぁ」 「あの建物に入った」 そうしてタバサが建物を指差す。 「ねぇ…あれって…」 「もしかして…」 「宿屋」 スタープラチナ・ザ・ワールド! タバサとシルフィードを除いて時が止まり止った世界の中で、なーんかものスゴイピンク色の妄想がリプレイされたッ! ~10分経過~ 「や…やるわね…あの平民…学院じゃできないぐらい激しいことをしてるって事ね…」 先に時が動き出したキュルケがジュルリと涎を飲み込み口を拭いて熱の流法に突入した。 ルイズのは方はなんかブツブツ言っている。免疫が無い分、妄想力(もうそうぢから)が高いらしい。 「……エオル…スーヌ……ル・ヤル……クサ オス………ヌ・ウ…ュ・ル……ド ベオー…ス……ル・スヴ……ル・カノ……シュラ ジュ……イサ………ジュー・ハ…ル・ベ……クン……ル…… 」 6XXX年、ハルケギニアは虚無の炎に包まれた!地は枯れ、海は裂け、あらゆる生命体は絶滅したかに見えた。だが!人類は死滅していなかった!! 「YouはShock!虚無で空が落ちてくるー…YouはShock……」 「なに鼻血流しながらブツブツ言ってるのよ」 モヒカン率のやたら高い世紀末世界が見えたような気がしたがルイズの妄想だったらしい。 「あああああああ、あのサカリの付いたハム…!まままままま、毎日こんな事してたんだわ……!」 今にもキレそうだが鼻血流しながら言っているあたり説得力は無い。 一人冷静なタバサが呆れたように二人を見ているが口を開いた。 「入る?」 その言葉を聞いて二人は実に迷ったッ! キュルケの場合よろしくやっていた場合、参加するかどうかッ! ルイズの場合、今後の扱いをどうするかッ!あと、25%ぐらい泣きたい気持ちでッ! 20分程迷った結果入る事になった。 「ゴクリ…いい…開けるわよ?ってお子様には刺激が強いわよ!」 生唾が止まらない御様子のキュルケさんだが、水筒片手にしたタバサが先に入った。 そして立ち止まって呟いた。 「珍しい…」 『珍しい』、現在進行形で脳内ピンクのお二人にはもうそっち方面としか受け取れない。 「なに?扉入っていきなり!?」 そりゃあいくらあたしでも心の準備ってもんがー。と涎を拭きながら視線を前にやるが、それ以上にブッ飛んだものを見る事になったッ!! そこで見たものは営業スマイル全開でウェイターをやっているのは我らが兄貴だったッ! あの無愛想面がこうも笑えるものかと思えるぐらいスゴかったッ! 「いらっしゃ……い」 扉が開いたのを見てそっちに目をやると見慣れた三人が居たので一瞬その顔を引きつらせるがすぐに顔を戻す。この男プロである。 「三名様入ります」 変わらず営業スマイルで三人を奥の方のテーブルへと運ぶと急に何時もの顔になった。 「…なにをしにきた?」 「いつもの冷静な顔もいいけど、笑顔もステキねー」 「超レア」 ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ *┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ 「なにをしにきた?」 「そ、そりゃあねぇ…ルイズ?」 このアマーーーー!わたしに振るのかーーーーーッ!と心の中で恨みながら何とか答えた。 「あんた…が毎日、出かけてるし…きょ、今日だって…あのメイドと一緒だったから…」 「それで、尾けてきたってか」 毒気を抜かれ呆れたように言い放つ。 雰囲気が軽くなったのかキュルケが口を開いた。 「で、ここで何をやってるの?」 「…見りゃあ分かんだろ、仕事だ」 「いや、それは分かるけど…なんで?」 「色々とだ」 そうしてると珍妙な声が聞こえた。 「プロシュートちゃ~~~ん。こっちのお客様の相手してあげてぇ~~~」 「…イエッサー、ミ・マドモワゼル」 そういって離れていったプロシュートと入れ替わるようにシエスタとゴツイピチピチの衣装のオカマがやってきた。 「あれ、皆さん。どうしてこんなところにいらっしゃるんですか?」 いつもとは違ったメイド服のシエスタだったが、後ろのオカマが強力すぎてそっちは目に入っていない。 「…何…やってるの?」 「ここ、わたしの従妹とそのお父さんが経営してるんです。で、こちらがその『ミ・マドモワゼル』ことスカロンさんです」 「あら~~~可愛い娘達ねぇ~~どう?うちの店で働いてみ・な・い?」 ぶっちゃけドン引きで声が出ない。なんとかルイズが声を絞り出す。 「え…その…スカロン?さん」 「ノンノンノン『ミ・マドモワゼル』よ」 「…ミ・マドモアゼル…あいつは…ここでなにを?」 「あいつ?プロシュートちゃんのこと?この前シエスタちゃんと一緒に来てから働いてもらってるのよ~ プロシュートちゃんのおかげで女性客も増えたんだから大満足なのよ。ン~トレビア~~ン」 初めて紹介された時スカロンがプロシュートに迫り、思わずボスが乗り移ったのは内緒だ。 「兄貴ィー、三番テーブル、シフトB」 壁に立てかけられたデルフリンガーから伝令が伝えられると声が聞こえてきた。 「お客さん、うちの店はそういう店じゃあねぇんだぜ…?」 スゴ味の聞いた声が聞こえてくると女性客から黄色い声援が上がった。 ちなみに、これで相手が引き下がらない場合。鳩尾への蹴りから鼻っ柱への膝蹴りx5が入り店の外に放り出される事になる。 そこに扉が開き客が入ってくる。だが、こちらからはそれが見えない。 「『ミ・マドモアゼル』要注意客Oが来店しましたぁ~~」 「まぁOが!?あの人、いっつも妖精さん達にイタズラするのよねぇ~~」 「…妖精さんって…なに?」 「ここで働いてる女の子達のことなんです。店の名前が『魅惑の妖精亭』っていうかららしいんですけど」 しばらくすると、軽い悲鳴が上がった。 「尻なでたぐらいで怒らんでもいいじゃろ?どうじゃ秘書やらんか!」 なんか、ものスゴク聞いた事ある声だった。 「兄貴ィーー5番テーブル、シフトO」 「全然懲りてねーなジジイ……」 「ゲェーーー!どうしてここに…!そ、そうじゃ、良いものあげよう!…だからこの件は内密にな…?」 「……なら、こいつを立て替えて貰いてぇんだが…経費で落ちんだろ…?」 「どれどれ…ちっとばかし高くない?これ」 「無理ならいいんだが…魔法学院院長っつー身分を笠に『魅惑の妖精亭』でセクハラか…大変だな明日から」 「分かった!分かったから…!内密に頼むぞい!」 どう見ても恐喝です、本当に(ry それを終えたプロシュートが戻ってきた。 「『ミ・マドモアゼル』…金は今できたから今日で抜けさせてもらうぜ」 「あらぁ~~~残念ねぇ~~プロシュートちゃんならいつでも歓迎よ」 「そんときは世話になるかもしれないが、頼むから顔を近付けるなッ!」 「いいじゃない、キスしちゃうわぁ~~~」 「うぉぉぉぉああ!!シエスターッ何やってるーッ!早くこいつを止めろーーーッ!!」 ある意味列車から落ちそうになった時より必死であった。 プロシュート兄貴 ― スーツ代GET が精神的に少々ダメージを負う。 要注意客O― スーツ代を経費で落そうとするがもちろん落ちず自腹確定。 ルイズ キュルケ タバサ シエスタ ― 引きつった笑みを浮かべながら傍観 戻る< 目次 続く
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「えぁ…………あいう」 意表を突かれたロングビルは、間の抜けた声しか出せなかった。 「どこに行くのかな? かな?」 再度、問い掛けるルイズは、ロングビルの目をのぞき込んだ。 鳶色の大きな大きな瞳が、ロングビルを射抜いた。 まるで、今日の夕食は何?と聞くかのような、軽い調子だが、 肩から伝わる力が、有無を言わせぬ迫力を醸し出している。 "メコッ"と、ルイズの片手が肩にめり込んで、ロングビルは激痛に喘いだ。 とてもじゃないが、身長153サントの、 小柄な少女が持つ握力とは思えない。 「そそそそその、て、て、て、偵察に、行こうと、思いましたの!ええ!」 「でも、1人だと危ないですわ、ミス・ロングビル。 フーケが潜んでいるかもしれませんもの。 今は、バラバラになることは避けるべきですわ」 ロングビルの必死の言い訳を切って捨てると、ルイズはロングビルをグイグイと廃屋の方へと引っ張っていった。 あまりに強いその力に、ロングビルはなす術がなく、されるがままであった。 廃屋から出てきた3人が、ルイズの姿を捉えた。 「あら、ルイズ。 どこ行ってたの? ミス・ロングビルも」 「いえ、私は、あの………」 「2人で周囲を偵察してたの。 フーケが潜んでいるかもしれないから。 そうよね、ミス・ロングビル?」 キュルケの問いに、ロングビルが答えようとしたが、それをルイズが遮った。 先程のやりとりとは全く食い違うルイズの言葉に、ロングビルは疑問を感じたが、 ロングビルに向けられるルイズの笑顔が、反論を許さなかった。 ロングビルは壊れた人形のように、カクカクと頷いた。 キュルケは、そんなロングビルの様子を訝しがったが、 やがて『破壊の杖』に注意を移した。 「それにしても、やっぱり変なカタチしてるわよね、これ。 本当に魔法の杖なのかしら」 キュルケは思ったことをそのまま口にしていた。 ルイズも同じ感想なのか、タバサが抱えている『破壊の杖』を、 胡散臭そうに眺めた。 ロングビルは、何だか落ち着かないのか、あちこちに視線を移し、そわそわしている。 「…それをかしてくれないか」 輪の外で、同じく『破壊の杖』を眺めていたDIOが、不意にタバサに話しかけた。 その場にいた全員が、DIOを見る。 タバサは暫く考えた後、トコトコとDIOに歩み寄り、『破壊の杖』を手渡した。 『破壊の杖』を手にした途端、DIOの手の甲のルーンが、ぼぅっと光を放った。 「どうしたの? それが何か知ってるの、DIO?」 DIOは、その金属で出来た物体を、しげしげと観察した後、ルイズの方を向いた。 「ふむ……。 『マスター』、やはりこれは魔法の杖などではないぞ」 DIOの言葉に、ロングビルが反応した。 「どういうこと?」 ルイズの再度の質問に答えることなく、DIOは『破壊の杖』を両手で持つと、流れるような動作で安全ピンを抜き、リアカバーを引き出し、インナーチューブをスライドさせ、チューブの照尺を立てた。 そして、フロントサイトをルイズに合わせる。 「これは、私の元いた世界で人間が使っていた武器だ。 『M72ロケットランチャー』という。 この安全装置を解き、トリガーを押すと、広範囲に渡る爆発を起こす弾を発射する。 ……どうしてこんなものがここにあるのやら」 DIOの懇切丁寧な使用方法の説明に、 ロングビルがそれとわからぬような笑みを浮かべた。 訥々と語るDIOに、耳を傾けていた4人だったが、 爆発という単語を聞いて、ルイズがあわてた。 「ちょ、ちょっと! どうしてそんな危ない物、私に向けるのよ!?」 「さぁ………どうしてだと思う?」 心なしかさっきよりも距離を取り始めているDIO。 4人の頬に、冷や汗がタラリと伝った。 ―――あれれ? まさかこいつ、この場で私達吹っ飛ばすつもりなのかな? 奇しくも、4人の考えがシンクロした。 「………冗談だ」 一言そういうと、DIOはロケットランチャーを元の状態に戻した。 4人は心底ほっとした。 安心したら、怒りが沸き起こってくる。 「この、バカ! ぜ、全然、笑えないのよ!!」 ルイズが叫んだが、その声はひきつりまくっていた。 DIOの言葉は、冗談なのかどうか判断しかねるのだ。 「で、でも、これで破壊の杖は取り戻せたわ。 後は、肝心のフーケだけね!」 さっきまでの狼狽を取り繕うように、キュルケが言った。 その通りだとばかりに、ルイズは頷いた。 フーケがこのままむざむざと、自分達を取り逃がす分けがない。 タバサも同じ意見なのか、油断無く杖を構えて、 周囲を窺っている。 「それでは皆さん。 二手に別れて、周囲を偵察するというのはどうでしょうか? フーケが姿を現さないのも気になりますが、 いずれにしても、私達は行動を起こさなければなりません」 ロングビルの提案に、4人は賛同した。 確かに、いつまでもフーケの出方を待つわけにはいかない。 盗賊相手に後手に回るのは、良策とはいえない。 宝物庫を破った時のように、盗賊が動くのは、 自分の成功をよっぽど確信した時だけなのだ。 話し合った結果、 DIOを廃屋に待機させ、破壊の杖の監視に当て、 キュルケとタバサが北側を、 ルイズとロングビルが南側を、 それぞれ見回りすることになった。 5人はそれぞれの武運を祈りあってから、別れた。 ――――――――― ロングビルは、ルイズよりもやや後方に位置する形で、 森を進んでいた。 すでに本道から外れているので、草木がありのままに茂っていて、 酷く足場が悪い。 草をかき分けながら、ロングビルは、自分の目的がほぼ成就されたことに喜んでいた。 あのルイズの使い魔のおかげで、破壊の杖の使用方法が明らかとなったのだ。 もはや、ロングビルの振りをする必要は、無くなったといえる。 あとは、邪魔者を消すだけだ。 その点ロングビルにとって、ルイズとチームを組むことになったことは、 好都合だった。 ロングビルは、ルイズの背中に鋭い殺気をぶつけた。 ルイズは危険だ。 ロングビルは先程のルイズの目を思い出す。 ルイズの鳶色の大きな目は、まるで全てを見透かしたようであり、恐怖を煽った。 場数を踏んでいるロングビルですら、しりごみしたほどだ。 ルイズは最優先で暗殺する必要がある。 ならば今こそが絶好のチャンスだ。 ロングビルは懐から杖を取り出し……… 「最初に怪しいと思ったのは、あなたが学院に帰ってきた時」 突然背を向けたまま語り始めたルイズに、ロングビルの手が、 ピタリと止まった。 「あのタイミングで、ノコノコと現れるなんて、嫌でも疑わざるを得ないわ」 「…………………」 ルイズの口調は、やはり軽々しい。 しかし、背中から発せられる威圧感は、瀑布のような勢いだ。 ルイズは歩みを止めた。 それに続いてロングビルも、立ち止まった。 「でね、その疑いは、さっきあなたが姿を消そうとした時に、 完全な確信に変わったわ」 ロングビルの手は、懐の杖を掴んだままだ。 「そもそも、ここまで来るのまでに、馬車で半日かかったわ。 馬を飛ばして、4時間ってとこかしら? 早朝に調査を始めたっていうのに、随分帰ってくるのが早かったわね、 『土くれ』のフーケ? どれだけ誤魔化しても……犬畜生の臭いは消せないわ。 プンプン臭うのよ、あなた」 ルイズが詠うようにロングビルを弾劾した。 ロングビルの動悸が早くなる。 背を向けたままのルイズの表情は、ようとして伺えない。 ルイズに気圧されまいと、ロングビルは自分に喝を入れた。 「な、何のことだか……………」 「言い訳無用」 "ドドドドドドドド…!" ルイズの口調が、完全に変わった。 それと同時に、ルイズの背中から発せられる威圧感が、質量を持つと錯覚するまでに増大した。 「フゥ……………大正解。 いかにも、私が『土くれ』のフーケよ」 観念したように、ロングビルはメガネを外して、その正体を現した。 目がつり上がり、猛禽類のような目つきに変わる。 「……どうして、こんな回りくどい手を取ったの?」 ロングビルの告白を意に介すことなく、ルイズは質問を続けた。 「私ね、この『破壊の杖』を奪ったのはいいけれど、使い方がわからなかったのよ」 全てを理解できたのか、ルイズの体が一瞬強張った。 それをみて、ロングビル……いや、『土くれ』のフーケは妖艶な笑みを浮かべた。 「あの杖、振っても、魔法をかけても、うんともすんともいわないんだもの。 困ってたわ。 持っていても、使い方が分からないんじゃ、宝の持ち腐れ。 でしょう?」 ルイズがフンッと鼻で笑った。 「だからわざわざケガをおしてまで学院まで戻ってきたってわけ? 私達なら、使い方を知ってるかもしれないから。 とんだ盗賊根性だわ。 呆れて声もでない」 「おだまり。魔法1つ扱えない娘っ子が。 悪いけど、貴女にはここで消えてもらうわ。 邪魔なんだもの。 …………でも、解せないわ。 そこまで嗅ぎ付けておきながら、どうして私と2人っきりになったの? そこだけが、どうしても分からないの。 よければ教えて下さる?」 フーケの問いに、ルイズは腕を組んだ。 「だって、2人っきりの方が、あなたを消しやすいんだもの」 仁王立ちのルイズが、高慢不遜に、当たり前のように言い放った。 フーケは一瞬キョトンとしたが、次第にその口元を笑みで歪めた。 「……あら、お互い考えていたことは一緒だったってワケ?」 「………そういうことになるわね」 滅多に無い偶然に、2人は、クスクスと笑い出した。 ――――次の瞬間、ルイズが弾かれたようにフーケの方を振り向いた。 その手には、杖がしっかりと握られている。 それを受けてフーケも、電光石火で杖を懐から取り出し、ルイズに向けた。 ピタリ、とその場が硬直した。 ルイズとフーケは、お互いに杖を向けあいながら、二手に別れてから初めて視線を交わらせた。 フーケの猛禽類のような目と、ルイズの狂気に染まった目が、お互いを射抜く。 龍虎相まみえる、というやつだ。 2人とも、殺意を隠そうともしない。 一触即発の2人だったが、しかし、この戦いは、既に勝敗決していた。 ルイズがニタリと笑った。 「チェックメイトよ、『土くれ』。 私を殺すには、少なくとも『ライン』以上の魔法を唱える必要があるわ。 でも、私はコモン・マジックだけでも、貴女を吹き飛ばすことができる。 どっちが素早いかなんて、オーク鬼だって分かるわ。 貴女は、魔法1つうまく扱えない少女に殺されるのよ」 ルイズの勝利宣言を、フーケが嘲笑した。 おかしくてたまらないという笑いだった。 「あは、は、あははははははははは はははははは………!!! あなた、何か大切な事を忘れてるわよ。 私は『トライアングルクラス』よ? 戦闘経験をつんだトライアングルクラスともなれば、 詠唱をしながら、お喋りをすることだってできるのよ。 チェックメイトにはまっているのはあなたの方だって、気づかなかったの? 私の詠唱は、さっき森を歩いていた時に、もう終わっているのよ…!!!」 フーケの嘲りに、ルイズの顔が焦燥で歪んだ。 動揺を隠せないのか、杖を持つルイズの手は、若干震えている。 ――――場の硬直は、しびれをきらしたルイズの言葉で、 解かれることになった。 「『レビテーショ……」 「遅い!ゴーレムよ!!!」 やぶれかぶれで詠唱をするルイズだったが、やはりフーケの方が早かった。 フーケが素早く杖を振った。 杖を振りかぶるルイズの 横の地面が盛り上がり、ゴーレムの右腕が現れた。 フーケお得意の『錬金』だった。 ルイズはそれに気づき、視線をゴーレムに向けたが、そこまでだった。 ゴーレムの豪腕が、唸りをあげてルイズに襲いかかった。 フーケは容赦なく、インパクトの瞬間、ゴーレムの拳を鉄にかえた。 ゴーレムの拳が、ルイズの側頭部を無慈悲に直撃した。 「うぐっ!!」 ルイズの断末魔は、それだけだった。 "バグシャア!" と、ルイズの頭蓋骨がコナゴナに砕け散る音が響いた。 レントゲンをとったら、 コナゴナに砕けた頭蓋骨の破片が、脳をグチャグチャにしているのがわかっただろう。 そのままゴーレムの右腕が振り抜かれ、ルイズは十数メイルも吹き飛ばされ、 地面に水平に飛び、近くの大木に叩きつけられた。 ルイズは力なく、血の海に沈んだ。 頭が完全に粉砕され、脳漿が辺りに飛び散っている。 目はあらぬ方向を向いていた。 完全に即死だった。 フーケはルイズの近くまで歩み寄ると、 その死に様を確認した。 「フィナーレは……案外あっけないものだったわね。 正直言って、今あなたを殺せてほっとしているわ。 でも安心なさい。 これから直ぐに、あなたのお仲間も後を追うわ」 フーケはペッと、唾を吐いた。 彼女なりの、皮肉のこもった敬意だった。 フーケは踵を返して、元来た道を戻り始めた。 フーケの背後で、ルイズの手が、ピクリと痙攣した……ように見えた。 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール―――死亡? to be continued…… 40へ
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わたしは屋敷の中庭を逃げ回っていた。まるで逃げることが得意な誰かさんのように。 「ルイズ、ルイズ、どこに行ったの? ルイズ! まだお説教は終わっていませんよ!」 お母さま、あなたの場合、お説教じゃ済まなくなることがあるから逃げるんです。 おっと危ない。誰か来たみたい。ルイズ、急いで茂みに隠れるのよ。 「ルイズお嬢様は難儀だねえ」 「まったくだ。上の二人のお嬢様はあんなに魔法がおできになるっていうのに……」 使用人にまでなめられるかわいそうなわたし。あんた達、顔は覚えたからね。 不心得な庭師と馬丁をやり過ごし、ルイズスーパーダッシュで中庭を走り抜けた。 色々と凝った造りの庭だけど、毎日眺めてる人間にとっては大した有り難味もない。 誰かさんに言わせれば庭師に対する感謝の気持ちを持つべきなんでしょうけど、さっきわたしの悪口言ってたんだからおあいこよね。 抜き足差し足かつ早足という神業で庭を駆け抜けたわたしは、池のはたに浮かぶ小船の中に潜り込んだ。 わざわざ毛布まで持ってきて、いざという時の隠れ家にしているのよ。おかげで住み心地は悪くない。 食料をちびちび失敬していれば、三日くらいはもつんじゃないかしら。 ただし、見つからなければという注釈つきで。気配を感じ、予備動作無しで伏せ、船に耳をつけた。 むっ……わたしが完璧な篭城体制に入ったのに、邪魔者再びあらわる。庭の方から足音がする。 この足音、家族のものじゃない。霧の向こうにうっすらと映るシルエットは……。 「泣いているのかい? ルイズ」 うわ、あのなんとかって子爵だ。あの人苦手なのよね。泣いてない女の子に「泣いてるのかい?」って言っちゃうセンスとか、そういうところが。 べつに何されたってわけでもないし、悪い人じゃないとも思うんだけど、何かむしが好かないっていうかさ。 理不尽なこと言ってるとは思うけど仕方ない。前世で何かあったのね、きっと。 なんたら子爵に捕まるわけにはいかない。ここで手をこまねいていてはすぐに見つかっちゃう。 わたしは素早く服を脱ぎ、下着一枚になって肩まで池につかった。 あれだけ追いかけっこしてれば準備体操は必要ないわね。ルイズスーパースイムで水に潜る。 波を立てないよう気をつけて、なるだけ深く深く潜水していきましょう。 「お嬢さま、こまめに手入れをしているとはいえ、お池の中は大変不衛生でございます。水泳に適した環境ではないかと」 そうかな。ところでなんであんたここにいるの? 「わたくし、蛙でございますから」 なるほど、納得ね。 わたしはヨーヨーマッ子爵に手を引かれ、水底に建設中の蛙王国を目指す。 幸いなことに、ゼロのルイズであるわたしは息継ぎの必要もゼロ。当分蛙王国でかくまってもらいましょう。 「ねっ。それはおすすめできないねっ、ねっ」 どうしてよ。 「ルイズは蛙が大嫌い。ねっ」 そうだった。忘れてたわ。どうしよう。 「共存共栄でよいじゃろう。石の上の蛙を殴る必要はあるまい」 誰がそんなことしますか。 「スクークム族でよく使われることわざにこんなものがある。赤い沼の蛙は右足を切れ」 意味が分からない。ていうかあなた誰? 「……」 なんですって? 水の中より陸の上で風に吹かれて暮らしたい? 蛙のくせしてどういうつもり? 「さあルイチュ。おいで」 グェス子爵が水の底で手招きしている。 普段は信用できないやつだけど、今日初めて会ったような蛙達よりはまだマシかもね。 「気にしないで。あんたあたしのお友達じゃない」 気づいてないなら教えてあげるけど、あんたが友達っていうたびに言葉の意味が軽くなってるのよ。 「あたしのルイチュ」 だからいつ誰があんたのものになったっていうの。失礼しちゃう。 「なァルイズ。そっちはいかネェ方がいいゼ。そっちは大凶の方角ダ」 何が大凶よ。あんたの言うことって、自信たっぷりなわりに根拠薄弱なのよね。 「キュイキュイッ! 根拠ならあるゼーッ」 ふうん。言ってみなさいよ。 「水の中デ暮らす夢ナンテ見たら寝小便確実ダッツーの!」 ベッドの上に横たわり、グェスの後頭部を見つめている自分を認識した。 額に張り付いていた前髪を指先で払う。肌が汗でべたついていた。……汗よね? 布団をはいで、ネグリジェの裾を胸元まで巻くり上げた。大丈夫そうね。 念のため下着の中まで確認した。乾いている。毛が薄い。お小水を漏らしてはいなかった。 胸を撫で下ろした。よかった。人として間違ったことにはならなかった。ドラゴンズ・ドリームには大感謝ね。 とても混沌とした夢を見ていたような気がするけど、夢って大抵は混沌としているわよね。だって夢ですもの。 気にしないでおこうっと。気にしたら眠れなくなっちゃう。まだ朝には早いみたいだし、ちょっと走ってこようかな。
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┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ ┣¨┣¨┣¨┣¨ 「『直』は…素早いんだぜ」 崩れ落ちるようにして倒れるフーケとは対照的に老人が徐々に若くなっていく。 「え…あ…プ、プロシュートだったの…?全然気が付かなかった…!」 偽装するために廃屋にあった服に着替え髪の編みこみも解いているがその老人は紛れもなくプロシュートだった。 「まさか自分自身をも自由に老化させる事ができるなんて…」 キュルケなぞ半分放心した様子でそれを見ている。 「こいつ…やはり袋の中身見てやがったな」 プロシュートが倒れているフーケから馬車で渡された袋を取り出したのだが見事に封が破られていた。 「…なにこれ?何かのマジックアイテム?」 袋の中の石のようなものを見てルイズが聞いてきた。 「ああ、そいつはその辺に落ちてた石ころだ」 「………はい?あの時確かに『老化防止薬』って言ったわよね?確かに言ったわよね?」 「言ったな」 「小屋に入る前に『グレイトフル・デッド』っていうんだっけ?あれ使った時わたし達誰も老化しなかったじゃない」 「オレの周りだけ直に老化させたからな」 ああ、つまりこいつは―― 「使い魔が主人を騙したって思っていいのかしらね…!」 小刻みにルイズが震えておりこれは間違いなくキレかかっている。 「中身見られるの分かってて対抗策渡すマヌケが居ると思うか?」 「…なに?それじゃあ最初からミス・ロングビルがフーケって分かってたの?」 「完全な確証は無かったが、大体はな」 「どうして分かったのよ」 「窃盗ってのはどれだけ早く現場から遠くに逃げるってのが成否を分けるもんだ それをしないでたかだか馬で四時間程度で辿り着けるような小屋を潜伏先にするって事自体怪しいからな。オレなら夜通してでもしてでも遠くに逃げる」 プロシュートは暗殺チームだがパッショーネには窃盗チームも存在する。 そいつらの手口と今回のケースを比べてみれば『土くれのフーケ』と呼ばれる程のプロが単純な窃盗目的でこんな事をするはずが無かった。 「それに、こいつの目だ。オメーらや他の貴族達みたいな目をしてなかったからな。どちらかというと…オレ達に近い」 フーケもプロであり、それを貴族連中からなら隠し通す自信もあっただろうが、己と同類項ともいえる世界を生きてきたプロシュートには通用しない。 「確証が無かったからしばらく泳がせたが案の定って事だ」 「…わたしに破壊の杖を使わせてゴーレムを倒させたのは?」 「オレが倒したらこいつが出てこねーだろ。近付かれるとヤバイってのは知ってたみたいだしな」 プッツン 「こ、こここの犬ーーーーーッ!!そ、そそそれってわたしを囮にしたって事じゃない!!」 「成長できたって事でよしとするって事で、こらえろ」 「ご主人様を囮にする使い魔がどこの世界にいるのよ!こ、ここの生ハムーーーーーーーッ!!!!」 もう、今にも杖を取り出し爆破しそうな勢いだがギアッチョをなだめさせる時のように諭す。 「ゴーレムを倒したのはオメーにその『覚悟』があったからなんだぜ? その『覚悟』がなけりゃあゴーレムだって倒せてないし、フーケだってここに転がってねーんだからな」 まだ、納得できてないのかフーケを見たりプロシュートを見たりしている。 ゴーレムを自分の手で倒してそれがフーケ捕縛に直接繋がったという達成感と使い魔に囮にされたという思いが激しく戦っているようだった。 「ま…マンモーニから少し成長できたってこった」 「仲良さそうにしてるとこ悪いんだけど…これどうするの?」 そうキュルケが指差す方向にあるものははもちろんカラッカラに干からびたフーケだ。 「…任務は捕縛だからな、殺すわけにもいかねーし…杖ヘシ折って縄で縛っとけばいいだろ」 「あー…いや、それもあるんだけど……戻るの?これ」 「老化した後、戻すかどうかってのはオレの自由だな」 安堵したかのようにため息を吐くキュルケだが、別にフーケの事が心配なのではなく自分が万が一これに巻き込まれた場合の事を想定しての事だ。 そうこうしているうちにいつの間にかタバサが干からびたフーケを縛っていた。 スゥー というような音がして縛られたフーケが元の姿に戻り始める。当然気を失っているため起きはしない。 「戻しちゃってもいいの?」 「捕獲すりゃあ別に老化させる必要もねーからな。スタンドパワーも無駄に使う事になる」 「…スタンドパワーってなによ?」 「使い手の精神力みてーなもんだ」 「よく分からないけどダーリンの不思議な力の源、つまりわたし達が魔法を使う事と同じって事でいいのかしらね」 「まぁそんなとこだ」 言いながらフーケを担ぎ馬車に戻るが、軽くするためにもう一度老化させた事は言うまでもない。 学院長室でオスマンが事の顛末を聞いていた。 「ミス・ロングビルが土くれのフーケじゃったとはな……美人だったもので何の疑いもせず秘書に採用してしまった」 早い話、居酒屋で飲んでるとこにフーケが給仕をしておりそれにセクハラをしても怒られなかったので秘書に採用したという事である。 コルベールが 「死ねばいいのに!」 と呟やいた気がするがプロシュートを除く三人は聞こえないふりをする事にした。 その後も続くオスマンの弁明だが曰く「あれがフーケの手だった」だの「尻を撫でても怒らないから惚れてる?」だの正直弁明どころか墓穴を掘っている。 ――がコルベールもそれに同調してるあたり同じ手に引っかかったらしい。 三人がホワイトアルバムよりも冷たい視線を送っている事に気付きオスマンが咳払いをして話の流れを変えようとする。 「さ、さてと、君たちはよくぞフーケを捕まえ、『破壊の杖』を取り返してくれた」 プロシュートを除いた三人が誇らしげに礼をした。 「フーケは、城の衛士に引き渡した…が何かしきりに鏡を見せてくれと言ってたようじゃが、『破壊の杖』は、無事に宝物庫に収まった。一件落着じゃ」 オスマンがその手で三人の頭を撫で話を続ける。 「君達の『シュヴァリエ』の爵位申請を宮廷に出しておいた。追って沙汰があるじゃろうな」 タバサはスデにシュヴァリエの称号を持っているらしく精錬勲章になるという事だが三人の顔が一斉に綻んだ。 だが、ルイズが興味なさそーに突っ立っているプロシュートに気付いた。 「……オールド・オスマン。プロシュートには何も無いんですか?」 「残念ながら、彼は貴族ではない…がこの前の決闘の処置が宮廷よりきてな」 「本当ですか?」 「うむ…処刑は免れたようじゃが流け…嘘!嘘じゃ!ジジイの愉快なジョーク…って痛い、痛いから」 『流け…』と聞いた瞬間放心したように杖を落としたが嘘と聞いて杖をオスマンに向け殴りつけた。 「…で、どうなったんですか?」 「う、うむ、何とかなりそうじゃの」 貴族が平民に決闘を仕掛け敗れたという点がグラモン家の『生命を惜しむな、名を惜しめ』という家風に反する事と そしてこれが一番の事だが、マルトー経由で 『二股かけそれが発覚。八つ当たりにメイドに魔法を使おうとし、それを止められ決闘になった』 これが決定打になった。 ただでさえ、貴族が平民に敗れて殺されたという事が平民の間で噂になっているというのに 平民のメイドに八つ当たりしようとして止められた事が噂として流れればグラモン家としては甚だ不名誉な事であり 最悪、他の国の貴族からの嘲笑の的になってしまう。 その恐れが『決闘の事は無かった事にしてください』という事にさせていた。 それを聞いたルイズが心底安心したようにため息を吐いた、ルイズなりに心配はしていたようだ。 「破壊の杖も戻ってきた事じゃし予定どおり『フリッグの舞踏会』を執り行う 今日の主役は君達じゃ。用意をしてきたまえ。着飾っておくようにな」 キュルケが顔を輝かせながら着替えるべく外にでていく。やはりこの手の行事は大好きなようだ。 「オレは爺さんに聞きたい事があるから先に行け」 「まだ、心は少年なんじゃがのぉ…」 「…身も心もさらに老化させてろうか?」 ルイズが心の中で(どこがだ!)と突っ込むが時に気にせず外に出る。 「さて…何を聞きたいのかね?」 「あの破壊の杖は確かにオレの世界のもんだ。パンツァーファウストっつーもんで魔法の杖とかじゃあねぇ」 「やはりドイツと言うのはお主の世界のものじゃったか」 「ああ、それと、パンツァーファウストを掴んだ時に その使い方までもが瞬時に理解できた。その時にオレの左手の文字みてーなのが光ったんだがこれが何か分かるか?」 左手に刻まれたルーンをオスマンに見せる。 「変わったルーンじゃの…コルベール君に調べさせておくからルーンを写させてくれんかの」 「そいつは構わねーが…この世界から元居た場所に戻れる方法はあるのか?」 「別の世界から召喚されたという事自体が無い事じゃからの…わしなりに調べてはみるが掴めんでも恨まんでくれ」 (まだ戻れそうにねーか…) リゾット達がボスの娘を奪取しボスを倒していれば問題は無いが自分が戻った時にチームが全滅などという事態になっていては洒落にもならない。 その焦りがプロシュートに珍しくため息を吐かせていた。 プロシュート兄貴―未だ帰還手段不明。 ←To be continued 戻る< 目次 続く